H
泰成は惺をシルヴィアの元へ連れて行った。なんとなく、気づいてしまったこと。
何の用だと問う彼女に、君がエマなんじゃないかと泰成は話しかける。最初は黙っていたが、やはり彼女がエマだった。
惺は大きな宝石を渡して「君のものだ」と囁いた。頼る身寄りがなく、とことんまで落ちていたエマ。彼女は惺の運命の女性に仕えていた執事の、末裔だった。執事にしてもらったことの恩を、君に返したい。惺の言葉に戸惑うエマを見て、泰成は気軽な調子で「貰っておいたらどうだ?」と笑う。あって邪魔になるものじゃない。
娼館を出て秀彬の待つホテルへ戻った泰成は、今日届いたばかりだと渡された父からの手紙を握りつぶしてしまう。ほとぼりが冷めたから、戻って来いと言う手紙。
さて、と惺を振り返った。
用は終わったんだろう?そしてやることもないんだろう?だったら少し、自分に付き合わないか。どうせ貴方も私も、しばらくは暇つぶしをするだけなのだから。
驚く惺に「どこへ行くんだ?」と問われ、泰成は秀彬を振り返る。
「お前はどこへ行きたい?この国へ来て、まだどこへも遊びに行ってないだろう。秀彬の行きたい所へ行ってみよう」
まさか泰成にそんなことを言われると思わなかった秀彬は、しばらく考えて「この国の南の端にある港へ行ってみたい」と言い出した。そこは豊かな漁場で、魚が美味しいと聞いたのだ。この国には珍しく、生魚を食べる習慣があるのだとか。
「久々に刺身か……それもいいな」
とりあえずそこまで、一緒にいよう。その先のことは、また考えればいい。やることないんだろ?笑って言う泰成に、惺は呆れた顔をしたけど。
「……お前のことなどどうでもいいが、刺身は悪くない」
そんな風に言って、了承してくれた。
【了】