【その瞳に映るものB】 P:01


 僕とナツの部屋は二人分ってことで、けっこう広い。
 何畳とかよくわからないけど、二人で寝ても余るベッドと、二人分のデスクと、あとソファーとかチェストとかテレビとかオーディオラックとか、色々置いてるけど。まだゴロゴロ出来てしまうくらい。
 高校生にもなって、兄弟で同じベッドに寝てるのとか、変かな?
 でも幼馴染みのナオこと、藍野直人(アイノナオト)が泊まりに来ても、一緒に寝ちゃえるくらい、大きいベッドなんだよ。二人で寝ててもサイズ的にはそれぞれ一人で寝るのと変わらないくらい。

 4月の新入生歓迎会は、ナツの思惑通りに大盛り上がりで終わった。
 新入生との面接っていうよりお茶会を、本気で全員としたナツは、手元の資料を見もせずに全員の紹介をやり遂げた。
 ナツってば本当に、天才的な記憶力をしてる。双子なのにズルいな……あれ、絶対僕の分も持って生まれて来たんだよ。
 しっかり笑いも取って、部活に入ることを望まない何人かの新入生のために、在校生に向かってしっかり釘を刺すことも忘れなかった。
 以上、部活の勧誘はこの笠原千夏(カサハラチナツ)を必ず通すように!……って。
 ブーイングが起こったけど、みんながノリでやってんのがわかってるから、ナツも「うるさいうるさ〜い!オレが生徒会長サマだ〜!」とか言うの。ホントにもう……何でもかんでも背負い込むんだから。

 5月に入ってゴールデンウィークが終わると、校内は途端に騒がしくなる。
 月の半ばに、一年生と二年生の中間テストに時期を合わせて、三年生の内部進学希望者の審査テストがあるから。
 入試って言う方がわかりやすいかな。この結果で、大学部への進学が決まるんだ。外部を受ける生徒も、自分の行き先を決めなきゃいけない。
 僕はナツと一緒に、嶺華大学の工学部へ進む予定なんだけど……まあ、進学に関して、心配はしてないんだ。自信もある。
 ただ僕は、周囲から首席合格を期待されてて、それはつまり外から嶺華大学へ入る人も全部まとめて一番じゃなきゃいけないってこと。
 今までの外部入試で、最高点だった人が残した点数の、平均っていうのがあって。とりあえずそれを越えてくれって、先生たちは言うんだ。
 見せてもらったんだけどさ。絶対無理だよあんなの……個々の教科なら、一つや二つは越えられると思うけど。全教科合計で越えようと思ったら、比較的得意な国語と英語で、満点取らなきゃなんないんじゃない?
 こんなことなら、定期考査で首位なんかキープするんじゃなかった。

「ねえナツ!聞いてる?!」
 僕が苛々しながら言うと、ソファーに背中を預けてラグに座ってるナツは、ローテーブルでやってる作業の手も止めずに、苦笑い浮かべて「聞いてる聞いてる」って応えるんだ。
 も〜〜……ちゃんと聞いてる?!
「あの人、ホントにナツの前と僕の前じゃ態度違うんだよ!今日だってさあ、先生の使ってるペンが変わったデザインだから、どこの?って聞いただけなのに、気に入ったなら買えばいいじゃないか。って!僕はどこのブランドなのか聞いただけなのに、どうせぼくの手取りよりたくさんお小遣い貰ってるんでしょ?とか言うんだよ!何の嫌味?!」
 しかも先生は結局、肝心のブランド名を教えてくれなかったんだ。
 ほんっとにムカつくんだから。
 ソファーの辺りに敷いてある毛足の長い手触りのいいラグは、ナツと二人で選んだお気に入り。そこに寝っ転がりながら、これも気に入ってるフェイクファーのクッションを、いくつも転がしたり抱えたりしてるんだけど……お気に入りのものに囲まれてるっていうのに、少しも落ち着くことが出来ない。
 僕がゴロゴロ暴れてても、ナツは相変わらずローテーブルの向こう側で、ソファーに背中を預けたまま、ノートパソコンをカタカタ言わせてる。
「ナツってば!!」
 八つ当たりってわかってたけど、そのテーブルに思いっきり上半身を乗り上げた僕の前で、ナツはひょいっとパソコンを持ち上げた。
「おっと、危ねえなあ」
「聞いてよっ」
「聞いてるってば」
「ちゃんと聞いてよ〜ナツ〜!」
 僕に邪魔されるのを嫌って、ソファーに上がって座り直したナツは、膝の上にパソコンを置いて、またキーボードを叩き始めてしまう。
「ナツが冷たい〜っっ」
 僕がこんなに悔しい思いをしてるって言うのに、全然共感してくれない!
「なんだよ、ちゃんとアキの愚痴、聞いてやってんだろ」
「聞くだけじゃなくて、一緒にイライラしてよっ」
「お前なあ…オレにまでそうやって、ゴロゴロバタバタしろって言うの?」
「そう」
「ったく…オレは忙しいんだよ。そこまで付き合えません」
「ひど〜い!つめた〜い!ナツのばか〜」
「はいはい。バカでいいから邪魔すんな」