メール作成画面を呼び出すけど、何を書いていいのかわからない。
まだシェーナにいるんだろうか?
それとも、もう帰ってる?
一緒に生まれてから、今まで。何をするのもずっと一緒だったナツ。道が分かれてしまうなんて、考えたこともなかった。
――ねえナツ、悲しむ?怒る?
こんな大きな決断を、ナツに相談もせず決めたのは初めてだ。
残ってたビスコッティを手にとって、齧ってみる。ほんのり香るオレンジと、優しい甘みがナツを思わせる。
まるで先生に押し切られたみたいになったけど、僕は自分の決断に、もう迷ってはいなかった。
ナツと僕は、違う人間だって。
本当はずっと誰かに、言って欲しかったのかもしれない。
いつもいつも「ナツアキ」って、まるでひとつの存在みたいに言われるのが当然だと、自分でも思っていたから。ようやく僕は僕自身を、認めてあげられそうな気がするんだ。
先生が言う通り、ワガママで猫かぶってて。無駄にプライドだけ高いし、皮肉屋だと思う。
でもそんな、大嫌いだった自分を、先生は気に入ってるって言うんだ。……あのナツよりも。
ナツがどんなに凄い人間か、正確に把握してる先生が言うんだよ。
口付けられた額に手をあてると、ドキドキ鼓動が跳ねる。意地悪く笑う先生の、猫みたいに悪戯な顔が思い出されて、顔が赤くなってくのがわかる。
間近で見つめた先生が、可愛かった。
今まで一度も考えなかったことが、たくさん自分の中に流れてきて。少し混乱しているのかもしれない。
僕は携帯を閉じ、溜め息を吐いた。
なんて、言おう。
どう言えば僕の中の混乱を、ナツにわかってもらえるだろう。
新しい場所へ踏み出したい。
でもそれを、どんな言葉で伝えればいいのか。どうしても思い浮かばなかった。
...next,side:N.
≪ツヅク≫