【その瞳に映るものC】 P:13


「美沙さんの話、聞けたし。タケルにもちゃんと、思ってること正直に言えたし…ここへ来て良かったと思ってる」
 大事な時間をもらえたから、後悔っていうのとは違う気がする。……でも。
「アキのことが…わからないんだ…」
 言葉にすると、本当に泣きたくなった。
 だって、こんなに苦しいとは思わなかったんだ。
 進路のこと、タケルのこと。秘密ばかりが今のオレたちに降り積もっていく。
「強くなりたいよ…」
 タケルの手に懐きながら呟く唇は、許されたばかりの泣き言を次から次へと吐き出してしまう。

 もっとオレが強かったら、アキは話してくれるんだろうか?将来のこと、相談してもらえたのかな。
 魂が繋がってるんだって思ってた。だから何でもわかるんだって、甘えてた。
 世界にたった一人、オレと一緒に生まれてくれた双子。
 オレが泣きたいとき、いつも代わりに泣いてくれた。オレが辛いときには、オレより先に気付いてくれた。
 アキがわからないなんて、思ったことないのに。

 悔しくて噛み締める唇を、タケルの指がたどる。なんだろ、すごいあったかくて、気持ちいい。
「…わからないことは、聞くしかないと思う」
「タケル…」
「答えてもらえないなら、待つしかないんじゃないか?」
「話してもらえるまで?」
「そう」
「…話して、くれるかな…」
 待ってればいいのか?待ってたらちゃんと、アキは話してくれるんだろうか。不安がるオレに、タケルが頷いてくれる。
「もう少し待っててあげたら」
「…うん」
 ゆっくり身体を起こして、ずっとオレを慰めてくれてたタケルの手を握る。
 オレはタケルのこと、まだ何も知らないけど。
「タケル…だったらそれまで、お前がそばにいて?」
 小さく囁くオレの言葉に、タケルは驚いたみたいだ。
 こんなこと、言っちゃいけない?でももう少し。アキがオレの存在を思い出してくれるまで。
 その時まででいいから、そばにいて。

 タケルはぎゅうって、手を握り返してくれる。
「ここに、いる」
「…うん」
 顔を覗きこまれて、急にかあっと血が上るのを感じた。
 なんかオレ、すげえ恥ずかしいこと言った?
 慌てて手を離そうとするけど、今度はタケルの方が離してくんなくて。
「泣いてもいいんだけどな」
 笑いながら言われ、オレはむっと拗ねた顔になった。
「誰が泣くか。ふざけんな」
「泣きそうだったくせに」
「うっさい。泣かねーよ」
「じゃあ…泣きたくなったら。俺を呼べよな」
 頬が熱くなる。
 でも、自分が喜んでるのもわかる。

 オレは息を吐いて、ゆっくり微笑んだ。
「…だったら、連絡先教えろ」
 肩を竦めたタケルが名残惜しそうに手を離し、携帯を取り出した。ああ、それ。オレが前に使ってた機種だ。
 
そんな小さなことが、妙に嬉しくて。オレも自分の携帯を探した。


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≪ツヅク≫