【その瞳に映るものD】 P:11


 ちらっと先生を見上げてみる。大きな瞳を僅かに細めて、僕を見つめていてくれる先生。
 ゆっくり息を吸い込んだ。
「…先生が、好きだよ」
 そうっと囁いたのは、今の自分の、正直な気持ち。
 今までのことを思うと、自分でも信じられないんだけど。僕はこの、性格の悪い、ついでに趣味も悪い、生徒会室ではナツの邪魔をしてばかりの人が、本気で好きなんだ。
 ――心臓が暴れてる。
 キスしてた時より、今の方がずっとドキドキしてる。
 先生は僕の言葉を聞いて、何度かまばたきをした。それから、いつもの意地悪なものとは全然違う、優しい微笑を浮かべたんだ。
「知ってる」
「…知ってる?」
 僕の気持ち、先生はとっくに知ってたって言うの?僕自身でさえ、確信したのは今なのに。
「いいのかい?僕はワガママだよ」
「わかってる。ワガママなだけじゃなく、性格が悪いのも、意地悪なのも、趣味が悪いのも。わかってる」
「それでも?」
「うん」
「いいんだね?」
「いいよ」
 先生は一度、僕をぎゅうっと抱きしめてから、額にキスを落とした。
「まあ、合格かな」
「先生…」
「いいよ。その言葉の効力が切れるまで、甘えさせてあげるよ」
 またそういう言い方をするんだから。
 僕の告白に答えようとはせず、先生は僕の肩を撫でていた。
「…ねえ、効力が消えたら、どうしたらいいの」
「また探せばいいじゃないか。甘い言葉」
「え〜…なんか、ズルい」
 不満を言いながらも、僕は先生に身体を摺り寄せる。だって、とりあえずは合格貰ったんだから。
 頭の上から先生の楽しそうな笑い声がこぼれてきた。


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≪ツヅク≫