オレはまだ、お前みたいに真っ直ぐ目を見て、好きだなんて言えない。
ようやくタケルの隣を歩けるようになった、オレの幸せをもう少しだけ見逃して。
そうっと手を伸ばし、タケルの背中に触れた。あったかいタケルの体温が、流れ込んでくる。
「少しだけ待ってくれよ。…オレは今、混乱してて、よくわかってないんだ…」
お前がオレを好きだという気持ちと、オレの中で少しずつ目を覚ました気持ちは、何が違うの?
今度その手でかき乱されたら、もう二度と抗えない。身体の熱に攫われて、答えを出す前に流されてしまう。
「先輩」
「…今はお前に応えてやれないけど、それでもお前を離したくない」
こんな風に正直に、ワガママを言うのは二度目だな。
じっと見つめる視線の先、タケルは困った顔で笑ってた。
手が伸びてきて、頬に触れられる。包み込むような大きな手は、いつもオレを慰めてくれた。
「こうして触るの、嫌じゃないか?」
「嫌じゃないよ。ずっと、そう言ってただろう?」
そうやって優しく触れられるだけなら、全然平気だよ。
「そうだな…」
タケルは大人びた顔で溜め息をつくと、慈しむみたいに優しい表情を浮かべて、何度かオレの頬を撫でてくれる。
「俺はアンタを好きなんだって、忘れないでくれよな」
「…わかった」
もう無邪気にお前を煽るようなことはしないよ。そこはちゃんと、反省するから。
タケルは切なそうに目を細めたけど、ちゃんと優しく笑ってくれた。
「じゃあ、待ってる」
「うん」
ほっとしたのも束の間、タケルはオレを見つめて口元を吊り上げた。そういう顔、一琉ちゃんにそっくり。
「こっちで寝てもいいか?」
……それって、どういう意味だよ。
じいっと見つめるオレの視線に、タケルは悪戯っぽく笑ってる。
「何もしない」
「絶対だな?」
「…抱きしめるくらいなら、いい?」
「タケル」
「それ以上は何もしない。約束する」
ホントかよ?って、思ったけど。タケルの体温に包まれて眠る、その誘惑にオレは抗えなかった。
身体をベッドの中央に移動させて、布団をめくってやる。
「妙なことしたら、叩き出すからな?」
「了解」
「…じゃあ、早く寝な。明日は早いんだから。起きなかったら置いてくぞ」
照れくさくて、くるりと背を向けた。
タケルはするりとベッドへ入って横になると、布団を掛け直してくれる。そうしてそのまま、オレを後ろから抱きしめてくれたんだ。
「おやすみ、先輩」
甘い声。
優しい体温に包まれて、オレはもう一度目を閉じた。
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≪ツヅク≫