夏休みだからといって、教師も同じように休みが貰えるわけじゃない。それどころか、嶺華(リョウカ)という学校は元から、他校に比べて休みが短いんだ。
一週間遅く一学期が終わるのに、二学期は公立と同じ9月1日始まる。加えて補習だ講習だと、部活以外にも学校へ来る生徒たち。
お坊ちゃん学校のくせに、ほんと真面目なんだから。夏休みくらいは学生らしく、ダラダラしてろって。
「そうだよね。もうちょっとみんな、先生のこと見習って、不真面目にやればいいのにね」
ぼくの愚痴に笑って付き合う、嶺華の制服に身を包んだ少年は、最近手に入れた可愛い恋人。
生徒と恋仲だなんて非常識かな?
まあ世間の常識なんて、ぼくには関係ないけどね。
どうせあと半年でこの子は卒業だし、そもそもコレを手に入れたくて、ぼくはこの嶺華へ来たんだから。
「アキ」
「ん〜?」
「いいから黙って。ほら、こっち向く」
化学準備室の壁際に置いてある、背の低い棚。奥行きのあるそれはここのところ、すっかりアキこと笠原千秋(カサハラチアキ)の椅子となっている。……まあ、時にはベッドだったり。
自分もその棚に乗りあがり、アキの膝に座って彼の顔を間近に見つめた。
何度見ても、整った顔。左目の下に小さなホクロがあって、そこに口付ける時の目を閉じる瞬間が可愛い。
ちゅっと口付けて唇を離すと、アキはそれ以上をねだるように、ちろっと舌先を見せた。躊躇なく唇を重ね、アキの口の中に舌を差し入れる。
「ん…っ、ん」
上手いんだよね、この子。
絡み合う狭い口腔の中で、舌の横の辺りを舐められると、たまらなく熱が上がってくる。
誰に教えてもらったんだか。今までどんな女の子と付き合ってきたのかな?
誰かを好きなるのは、ぼくが初めてだとか言ってたけど。セックスしたのが初めてだとは言わなかった。
丁寧な愛撫は馴れていて、彼が多少は遊んできたんだとわかる。
双子の弟の方は、随分奥手みたいなのにね。いつも一緒だったくせに、どんなスキついて遊んでたのか、いつか全部吐かせてやりたいと思ってるんだ。
「っ…あ、ん」
あまりの熱さに音を上げて唇を離すと、アキは腰に回していた手で、するっとぼくの胸に触れた。
目が細くなると、性根の悪さが垣間見える。アキのこういう顔が好きだ。
「先生、やらしい顔」
「…やらしいことしてるんだから、当たり前だろ」
「もう乳首立ってるよ。弄って欲しい?」
「ん…」
言いながら、アキは親指の腹でやわやわとそこに触れてる。もどかしいって、早くしろ。
「ねえ、弄って欲しい?舐めて欲しい?」
「アキ…」
何を言わせる気だ何をっ。
アキは意地悪く笑いながら、ゆっくりぼくのシャツのボタンを外していく。上からひとつひとつ、順番に。
「藤崎先生がして欲しいこと、してあげたいんです。…良く出来た生徒でしょ?」
「ばか」
「ほら、選んで」
ベルトの近くまでボタンを外して、シャツを左右に開いたアキは、本気でぼくが選ぶまで何もしないつもりらしい。
中へ手を差し入れて脇腹を撫で上げ、首を傾げた。
「どうする?」
「…アキ」
「決めた?」
可愛い顔して、ほんとに性格が悪いんだから。まったくもう。
さて……弄るか舐めるか、か。
どうしようかな。
「じゃあ、両方」
ぼくの答えに、何度かまばたきをしていたアキは、可笑しそうに肩を震わせた。
「あはは!欲張りだな〜」
楽しそうな顔して。
アキのことは泣いていても沈んでいても好きだし、頼り切ってくるところも、ぎゃんぎゃん噛み付いてくるところも愛しいけど。こうして肌を重ねるようになって思ったのは、それ以上に二人でいるのが楽しいってこと。
今まで周囲はバカばっかりで、ぼくの冗談を本気にしたり、本気の言葉を理解出来ないヤツしかいなかった。なのにこの子は冗談と本気のギリギリのラインを、正確に拾ってくれる。
生意気にも、ぼくの本気をわかっていてはぐらかしてみたり、冗談を逆手に取ってくるんだ。
他人との会話が楽しいなんて、アキと一緒にいなければきっと、考えなかった。
指先で、もう敏感になっている胸の突起を、きゅうっと強く抓られる。
「っ!」
痛みに眉を寄せた瞬間、反対側を舌先で押しつぶされた。
ヤバい、気持ちいい。
「ふ…あっ、ぁ」
顎を上げて押さえ気味に声を漏らしながら、アキの頭を抱え込んだ。それ、いい。気持ちいい。
しばらくそうやって、痛みと快楽を交互に与えられていると、鳥肌が立つようなぞくぞくしたものが身体中に広がっていく。
「ね…せんせ、しよ?」
囁きに、声も出せず頷いた。
ここが学校だなんてこと、言われなくてもわかってる。鍵をかけてカーテンを閉めているとはいえ、公共の場である化学準備室。