「いや…それは、その」
『なに?』
「ごめん…先輩、声が出なくて、話せないんだ」
『はあ?!お前ほんとに何したの!』
「えっとだから…ちょっとその、無理させちゃって」
俺の言い訳になってない言葉を聞いて、兄貴はしばらく絶句してた。
反省、してるってば……
『ナツくん、どうしてるんだい』
「あの…寝てるよ。ここにいるけど、動けないみたいだし、声も出ないし、電話はちょっと…」
『薬は?』
「…薬って?」
『ったく。キッチンの薬箱に鎮痛剤があるから、飲ませてあげなさい。頭痛薬だよ、知ってるね?』
「うん。わかった」
そっか、痛み止めを飲ませれば良かったんだ。全然気付かなかった……。
そうだよな。兄貴に電話すれば良かったのに俺、千夏を見てるだけでいっぱいいっぱいだった。
『その様子じゃナツくん、明日は学校に来られそうにないね』
「えっと、たぶん…無理だと思う」
『お前はほんとに…がっつくんじゃないって、あれほど言ったのに』
「ごめん…」
『ぼくに言っても仕方ないだろ。お前の学校にも連絡しておくから、明日はちゃんとナツくんについてなさい』
「うん、ありがと」
『…言っておくけど、盛るんじゃないよ』
「し、しないってば!」
こんな状態の千夏に何するってんだよ!そこまで節操ナシじゃないよっ!
『とにかく熱があるようなら冷やしてあげて、さっき言った薬飲ませて。ちゃんと看病しなさい。お前のせいなんだから』
「…わかった」
兄貴に「お前のせい」なんて言われたらなんか、余計に落ち込んでくるんだけど。
ふと見たら、千夏が震えてる。
な、泣いてるとか?
『いいかい?ナツくんが痛みを感じてたらアキに影響するんだよ!今度こんなことがあったら、別れさせるからなっ』
「え、ちょっと待って、それは…」
出来ないって答えながら、少し布団をめくってみる。震えてる千夏は泣いてるんじゃなくて、笑ってた。
「千夏…」
押し付けられた携帯。
液晶に並んでる言葉。
≪今度からは加減しろよな。あと、身体中痛いんだけど、約束忘れてないか?≫
呆然とそれを見てたら、かあっと顔が赤くなってきた。
『ちょっと武琉!聞いてんのっ!』
ごめん兄貴、聞いてない。
俺は素早くベッドに横たわり、千夏を抱きしめて口付けた。痛いって言ったらキスで慰めるの、約束したんだ。
千夏の柔らかい唇に吸い付き、ゆっくり離す。
「千夏…ごめんな?今度から気をつけるから…好きだよ」
囁いてみる。そういえば目を覚ましてから、一度も言ってなかった。
俺を見つめる千夏は、甘い溜め息をついて。その瞳に俺を映したまま、幸せそうに微笑んでくれた。
...next,epilogue./side:???
≪ツヅク≫