【その瞳に映るもの・2010X'mas】 P:01


 目を覚ましたのは、自宅のリビングのソファーだった。
 ズキズキと痛む頭を宥めながら、かすかな記憶をたどって、ランドリーを覗いてみる。乱暴に置いてあったスーツとシャツ。タグを見てブランド名を確かめ、長谷真幸(ハセマサキ)はその汚れたスーツを手にしたまま、しゃがみ込んでしまった。

 ―――う〜わ〜…久々にやってもうた…

 後悔しても、もう遅い。
 酒の上での失敗は少ない方だと思う。しかし元が強いだけに、こんな時やらかす失敗は、いつだってタチが悪い。
 途切れ途切れになっている、昨夜の記憶。
 酷い夢だと信じたかったのに、手にした証拠を見る限り、現実なのだと認めざるを得ないようだ。
 背が高くガタイのいい長谷には、袖を通すのもきつそうな、細身のスーツ。刻まれたブランド名は、無頓着な長谷でも知っている有名な店のもの。
 触るのも躊躇うぐらい、汚れてしまっているそれ。クリーニングといっても、近所の安さと早さが売りの店に、持ち込むわけにはいかないだろう。

 ―――どっかあったかな…クリーニングなんかめったに使わへんから、全然知らんわ…店でマスターに聞いてみよか…

 長谷の勤める店で、開店当時から雇われマスターをしている年上の男は、そういう情報に詳しい。しかし長谷が普段使わないクリーニング店を尋ねれば、ことの経緯を話さなければならなくなるだろう。
 言いたくないと言ったって、聞き出されてしまうに決まっている。
 呆れられるか、笑われるか。
 ……両方かもしれない。

 ―――自業自得とは、よう言うたもんや

 仕方なく長谷は適当な紙袋にスーツとシャツを突っ込み、シャワーを浴びるため立ち上がった。
 
 
 
 
 
 昨日、昨日だ。
 思い出すのは、最悪だった12月20日。

 長谷が「今日、告白しよう思てんねん」と報告したら、働いている店のマスター、吉野(ヨシノ)はあからさまに嫌そうな顔をした。
 本当なら愛の告白をするなんてこと、上司に報告する必要はない。
 しかし相手が同僚となれば、話は別。
 たった3人の正社員。そのうち2人が万が一にもこじれてしまったら、マスターに迷惑をかける。
 真っ直ぐで律儀なタチの長谷は、誰よりもまず、吉野に話しておかなければと思って。
 事前に頭を下げ、報告することにしたのだ。