いじけた気分で長谷が皿の中を掻き回していると、予想に反して橘がイスを引いた。
「え…?」
「お前が作ったのか?」
「うん」
「器用なもんだな」
「…これが仕事やもん。カフェでシェフやってんねん」
「シェフって面か、図々しい」
言いながら顔を上げた橘は、じろりと長谷を睨む。
「な、なに?」
「お前、いつになったら気づくんだ。私にこれを、手づかみで食えと?」
「あ!ごめん、すぐ出すわっ」
彼がずっと皿を睨んでいたのは、カトラリーが何も出ていなかったせいだ。
慌てて長谷がフォークを差し出すと、橘は気にした風も無くそれでパンを刺し、アイスをすくって口へ運んでいる。
「…食べんねや…」
「食うために作ったんじゃないのか」
「そうです。食うためです。すいません」
呆然と見つめる長谷の、視線の先。
形のいい橘の口に、次々と入っていくフレンチトースト。黄色くて茶色くて、どろっと白いモノ。
長谷は初めて自分の作った料理が、確かに醜悪な見た目なのかもしれないと感じた。
しかしそのグロテスクなカタマリを、橘が黙って食べている姿に、妙な興奮を覚えてしまったのも事実だった。
《ツヅク》