「何でもええ、言うたやん?可能な限り、やんな」
「………」
「料理めっちゃキレイやねんで。ホンマにええ店なんや。待ってるから」
困惑した表情を浮かべる橘が、諦めない様子の長谷を見つめていた。
ちょっと視線を鋭くもされたけど。長谷が少しも意に介さないのだと気付き、橘はとうとう溜め息を吐いて「約束は出来ない」と呟いた。
「明日はこの三日間に溜め込んだ仕事で、忙殺されているだろう。クリスマスと言うなら明後日までじゃないのか?」
「そう、明後日のクリスマス。閉店の21時まで待ってる」
「長谷」
「真幸って呼んでって」
「出来ない約束はしない主義だ」
「ほんなら約束やのうて、オレのお願い」
「お前は…」
「絶対に待ってるから。冬吾さんが来てくれるの、待ってる」
真摯な囁きを繰り返され、先に音を上げたのは橘だ。
「…約束はしないからな」
「うん。でも、覚えとってな」
「わかった」
「嬉しい。ありがと、冬吾さん」
ぎゅうっと抱きしめる。本当に幸せそうな顔で微笑む長谷を、上目遣いに見つめて。橘が口元を綻ばせたように思ったのは、もしかすると長谷の、ただの願望だったかもしれない。
《ツヅク》