【その瞳に映るもの・2010X'mas】 P:11


「あ〜あ…もう、終りかあ…」
「………」
「なんでか、聞いてもええ?やっぱりオレがこんなこと、言い出したから?」
「そうじゃない。最初から三日間のつもりで居座ったんだ」

 言い訳がましい気配も見せず、淡々と橘の語った話。
 最初に出会った夜、橘は仕事上のトラブルで、人に追われていた。長谷に出会いこの家に連れてこられても、本当はすぐに出て行くつもりだったのだ。
 しかし上司に連絡を取ってみれば、事態はますます悪くなっていて。なんとか3日間、身を隠せと言われたのだ。

「そんな事情があったんやったら、言うといてくれたら良かったのに」
「詳しい事情を話すことは出来ない。十のことを話せないのに、一つだけ話しても仕方ないだろう?」
「そっか…」
「迷惑を掛けたことはわかっている。礼をするのが筋だと言うこともな。…欲しいものがあれば言うといい。金でも何でも、可能な限り叶えてやるぞ」

 こういう事情があったから、今日が最後だと思ったから橘は、やけに優しくしてくれたのだろうか。
 長谷は寂しげに視線を落とし、ふいに橘が同じように視線を落としていると気付いて。仕方ないと、苦く微笑んだ。

 ―――甘辛ミックスいうんは、こういう人のことなんかなあ…

 すごく冷たいのに、ちゃんと長谷ことを見て、話を聞いてくれる。きっととても有能なんだろうに、ときどき自分の本心を隠し忘れてしまう。
 デザートを食べるのに夢中だったり、人が誘わなければ食事の一切に無頓着だったり。
 綺麗で可愛い、長谷の腕の中の人。

「…明日の朝メシ、付きおうてくれるんやんな?」
「そうだな」
「オレが家を出てから帰るん?」
「ああ、そうなるだろう。預かっている合鍵は、ポストにでも入れておく」
「それ、直接返してくれへん?」
「…なに?」

 長谷の言うことがわからず、橘は不審そうに眉を寄せた。
 いや、不審がっているわけではないのだ。この冷たい美貌で眉間に皺を寄せたりするから、そう見えるけど。たぶん彼は、不思議がっているだけ。
 確信があったから、長谷は迷わなかった。

「オレの作るクリスマスディナー、ウチの店に食べに来て?家で作るんとは違う、本気の料理やから」
「それは…」