「冬吾さん、ありがとう」
「ああ」
「なあ、終りとちゃうやんな?」
「そうだな…この店の素晴らしく美しいドルチェより、お前の不味そうなデザートを選ぶようになってしまった、その責任は取ってもらわないとな」
橘がどんなつもりで、そんなすごいことを言ったのかはわからないけど。そうっと腕を緩めた長谷は、大きな両手で橘のきれいな頬を包んだ。
「好きになっても、ええやんな?」
「お前の勝手にするといい」
「うん、冬吾さん。めっちゃ好き」
「知ってる」
わずかに甘い色が混ざった、橘の瞳。それをじっと見つめ、長谷は優しく囁いた。
「メリークリスマス、冬吾さん。一番嬉しいプレゼントやわ」
ゆっくり唇を重ねる。もう蹴り上げられたりはしないだろう。なにしろ橘は、椅子に座っているのだし。
何度かついばみ、橘の唇を味わって。長谷は抱きしめる腕に力を込めると、噛み付くように深く口付けた。
「っ…ふ、んっ」
舌を差し入れられ、口腔の中を舐めまわされる。一瞬にしてぎゅうっと身を固くした橘は、意識的に身体の緊張を解き、肘を引いた。
鋭い拳が、長谷のみぞおちに叩き込まれる。
「っぐ!…いっあ…ぁ」
「そこまで許してやるとは言ってない!何度同じことを繰り返せば気が済むんだ、このバカが!!」
橘の怒鳴り声に、どっと笑い声が重なる。
厨房の入り口には、カフェ・シェーナのスタッフが勢ぞろい。
その真ん中で「せっかくお膳立てしてやったのに」と、吉野が苦笑いを浮かべていたのは言うまでもない。
《了》