【蓮×千歳@】 P:01


 大手出版社に勤めて7年目。
 東 千歳(アズマチトセ)は先週末、唐突に移動を命じられ、週明けの今日から別の部署へ移ることになった。

 ――今度は旅行雑誌かあ…

 編集者になってから、移動はこれで四度目だ。

 最初は寝る間も惜しむような、週刊の情報誌。若さを買われて思う存分しごかれ、体力のない千歳は文字通り、血を吐いて乗り切った。

 そこで三年間を勤め上げた千歳が、やっと仕事にも慣れ、仕事の面白さもわかってきた途端、若い女性向けの隔週ファッション誌へ移動。この会社では数少ない、女性ばかりの部署だった。

 気を取り直し、新たな環境で一年を過ごした頃、今度はもう少し高い年齢層をターゲットにした、女性向け月刊ファッション誌に再び移動を命じられる。だがこの時の部署は、前の隔週ファッション誌の編集部と交流があり、同じフロアで隣のエリアという環境だったこともあって、大した違和感を感じずに済んだ。

 しかし女性に囲まれての仕事は、なにかと気苦労も多くて。元より女性の苦手な千歳が、いい加減疲れてきた矢先に受けた移動命令の先は、一転して男性ばかりの隔月ビジネス誌。
 まったく馴染のない専門用語に囲まれた生活。入社6年目にして、そこでは新人扱い。
 それでも必死にくらいついた。
 一週間で覚えろと命じられれば、三日で覚えるよう努力した。
 何事にも一生懸命だが、他人を押しのけてでも前へ出よう、という気概に欠けた千歳。そのわりに押し付けられる仕事を器用にこなすものだから、どの部署でも扱いはあまり変わらない。
 そして今回、五つ目の移動先へ移る事になる。

 ――結局僕はどこへ行っても、便利なアシスタントなんだよなあ…

 実際、前のビジネス誌ではそう呼ばれていた。
 今度も同じ扱いだろうと、ため息混じりに新しい部署へ足を踏み入れる。今までよりも狭いフロアには、これから配属される旅行雑誌の編集部しか入っていない。
 昨日の夜遅く、新しい編集長から直々に電話をもらい、千歳は早朝の出勤を命じられていた。
 理由は聞かされていないが、雑誌編集者にとって始業時間や就業時間にはあまり意味がないことは、叩き込まれている。

 移動も四度目となれば慣れてくるもの。
 出社してすぐ、前の編集部へ荷物を取りに行き、週末から帰れないでいる編集長に挨拶をして荷物をまとめた千歳は、そのまま新しい編集部へやってきた。手には何冊かのファイルと、大き目の紙袋が握られているだけだ。

「失礼します」

 声をかけて編集部に足を踏み入れた千歳は、思わずぽかんとしてしまう。