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十年経っても変わらない、一方通行の想い。自分の気持ちに何一つ気付いていなかった頃には、もう戻れない。
どう言っていいのかわからず、千歳の瞳の端に涙が浮かんでくる。
見られたくなくて下を向いた千歳の頭の上から、他の者とは違う、やけにはっきりした声が聞こえた。
『おや、キミとは確か、前にも会ったことがあるね』
「え?」
間違いなく自分へ向けられた、日本語。
とっさ顔を上げ、振り返る。
『ああやっぱり。なんだったかな…そうチトセ。チトセだろう?』
振り返ったことを、心底後悔した。
千歳の視界に男が現れる。
息が詰まるような、圧倒的な存在感。
彫りの深い焼けた肌に、穏やかな瞳があって。男は優しく微笑んだまま、逆さまに千歳を見ていた。
『久しぶりだね、チトセ』
「ひっ…!」
ふわふわ、ふわふわ。
宙に浮いた男が、くるりと半回転。
真正面から見つめられ、意識を手放した千歳は、蓮の腕の中に崩れ落ちていた。
《ツヅク》