【蓮×千歳C】 P:01


 携帯電話に届いたメールの着信音に気付き、東 千歳(アズマチトセ)は朝食の手を止め、発信者を確かめる。表示された葛 蓮(カズラレン)の名前に、慌てて携帯を開いてみると、液晶画面いっぱいに鮮やかな海の青が広がった。

「あ…」

 ――今日、東京に戻る。

 短いメッセージ。
 蓮は最近、他社の仕事であっても、取材先から戻るときに必ず、千歳へメールを送ってくれる。口下手な彼らしい言葉少ななメールにはいつも、取材先で撮った写真が添えられていて。
 携帯で撮ったものとはいえ、
プロカメラマンである蓮が、自分だけに見せてくれるそれらの写真は千歳にとって、大切な宝物だ。

 千歳と蓮が再会してから、もう一ヶ月が経っている。
 一度は責めるような口調で、千歳の結婚を切り捨てた蓮だったが、それからの二人に変化はない。
高校の頃に戻った様な、千歳にとって心地いい関係が戻っていた。
 編集者とカメラマン。
仕事の上でも蓮と千歳は絶妙なパートナーだ。
 まだ旅行雑誌の仕事に慣れていない千歳を、彼はそっとフォローしてくれる。また蓮にとって初めてとなる文章の仕事に、千歳は出来る限りの助力を惜しまない。
 蓮は千歳の言葉には、昔と変わらず素直に耳を貸してくれるのだ。

 千歳が告白さえしていなければ、
高校を卒業してからも手にしていられたはずの、二人の時間。十年の歳月を経て、千歳は再び蓮の親友という座を取り戻した。

 笑みを浮かべて千歳が携帯を見つめていると、朝食の席に着いている理子(リコ)が苦笑いで「葛くん?」と尋ねる。

「うん。今日帰ってくるって」
「見せてもらってもいい?」
「いいよ」

 千歳の差し出した携帯を受け取り、そこに表示された画像を見た理子は、鮮やかな色彩に目を細めた。
 蓮からメールを受け取るたび、千歳があまりにも嬉しそうにしているものだから、理子も便乗して見せてもらうのだ。さすがというべきか、プロの撮った写真はたとえ携帯でも素人とレベルが違う。

「きれいね。葛くんの写真見ると、携帯でも色んなことが出来るんだなって感心するわ」

 言いながら目の前の息子、虎臣(トラオミ)に千歳の携帯を回してやる。トーストに噛り付いている少年は、不機嫌そうにそれを見て唇を尖らせていた。

「デジカメで撮った写真を、携帯に取り込んでるだけなんじゃないの?」
「違うみたいだよ。僕も前に聞いたんだけど、これは葛の携帯で撮影したものなんだって言ってた」
「…嬉しそうだね千歳さん」
「え?!そ、そうかな」

 虎臣から携帯を返してもらった千歳が、もう一度蓮のメールを見て頬を染める。