【蓮×千歳C】 P:10


「待って、ちょっと待って!…わかんなくなってきた。僕が住むの?葛の家に?」
「嫌なら無理は言わない」
「そんな、嫌なんじゃなくて、だから」
「千歳…千歳?」
「葛と一緒って、平気なの、僕?でもやっぱり、ああっだけどっ」

 意味不明なことを口走る千歳を見ていて、このままでは埒が明かないと判断したのだろう。蓮は席を立ち、千歳の隣に移動すると、華奢な身体をいきなり抱きしめてしまった。

「ぅ、わあっ」
「いいから落ち着け、千歳」

 熱い身体が密着している。
 頭の中が真っ白になって、千歳はそのまま固まってしまった。

「あ…あ、ぁ」
「悪かったな、そんなに混乱させるつもりじゃなかった」
「かずら…っ」

 肩を抱いたまま頭を撫でてくれる蓮の、薄手のシャツにしがみついてしまう。顔を押し付けていないと、勢いで心の中に溜め込んだ気持ちを、吐露してしまいそうだ。
 耐え切れなくて泣き出した千歳は、そのまましばらく蓮に抱きついていて。
 長い指に顎を持ち上げられるまで、動けなかった。

「ひ、ぅ…」
「落ち着けよ。泣くことないだろうが」

 苦笑いを浮かべた蓮が、指先で涙を拭ってくれる。もうまともにものを考えられなくなっている千歳は、蓮の腕の中で子供のように頷いた。

「力になってやりたいと思っただけだ。無理は言わないから、よく考えろ」
「…うん」
「ゆっくり考えて答えを出せばいい。待っていてやるから」
「うん…うん」
「ほら立てるか?送ってやるよ」

 肩を撫でる蓮に促され、千歳はふらふらと立ち上がる。
 泣きながら蓮に支えられ、車まで連れて行かれた千歳の様子は、店の者からずいぶん興味深く見られていたが、今の彼に自覚があるはずもなかった。


《ツヅク》