「お前、うち来るか?」
「え…それって、どういう…」
「俺の家だよ。幸い広さだけは十分にあるぞ。すでに二人居候を抱えてる状態だ。お前が越してきても問題ない」
どうだ?と問われ、千歳は今度こそ真っ赤になった。
――それってまさか、葛と同居するってこと?!
同じ家で目を覚まし、同じ家で食卓を囲んだり、もしかしたら出勤するとき、一緒に家を出たりするのだろうか。
まるで、家族みたいに。
どんどん広がるイメージに、千歳の頭が追いつかなくなっていく。
「ちょ、待って。無理だよそんな、僕」
毎日顔を合わせる生活なんかしたら、くすぶり続けている気持ちがまた溢れ出すかもしれない。なんと言っても、千歳は一度告白して、フラれている立場なのだから。
パニックを起こしている千歳を見て、葛は心配そうに眉をひそめた。
「そうか…そうだな。お前にとって俺の家は、鬼門だったな」
不思議なイキモノがたくさん住んでいる葛家。そこを訪れた際に、彼らの声まで聞いてしまい、話しかけられて気を失ったのは、記憶に新しい話。
しかし今の千歳にとって、人ではない者のことなど、問題ではなかった。
―――ズルいよ、そんな顔するのっ
残念そうに目を伏せている蓮。どこか辛そうな、悲しげな顔は、千歳の一番気に入っている顔だ。
でも、だからといって。
いや、だからこそ。
この蓮と同じ屋根の下に住むなんて、耐えられるわけがない。
「だってその、僕一人じゃなくて、虎くんも一緒なんだ」
「構わねえよ、一緒に連れて来い。さっきも言ったが、広さだけは十分にある」
「でも、そしたら虎くん、転校しなきゃいけないし」
「お前、今のあたりに住む気なのか?あの辺の地価で、ヒラのサラリーマンが部屋を借りられるとでも?」
確かに千歳の住んでいるマンションは、都内でも一等地。理子の祖母が多額の遺産を残してくれたからこそ、手に入れられたマンション。
もちろんそれだけではなく、水商売をしていた理子と千歳、二人分の稼ぎがあってはじめて成り立っていた生活だ。
「それに僕だって、会社離れちゃうし」
「三年前、歩いて行けるところに駅が出来たから、新宿まで一時間かからなねえよ。十分通勤圏内だろ」
畳み掛けるような蓮の言葉に、千歳のパニックはひどくなるばかり。