【蓮×千歳C】 P:09


「お前、うち来るか?」
「え…それって、どういう…」
「俺の家だよ。幸い広さだけは十分にあるぞ。すでに二人居候を抱えてる状態だ。お前が越してきても問題ない」

 どうだ?と問われ、千歳は今度こそ真っ赤になった。

 ――それってまさか、葛と同居するってこと?!

 同じ家で目を覚まし、同じ家で食卓を囲んだり、もしかしたら出勤するとき、一緒に家を出たりするのだろうか。
 まるで、家族みたいに。
 どんどん広がるイメージに、千歳の頭が追いつかなくなっていく。

「ちょ、待って。無理だよそんな、僕」

 毎日顔を合わせる生活なんかしたら、くすぶり続けている気持ちがまた溢れ出すかもしれない。
なんと言っても、千歳は一度告白して、フラれている立場なのだから。
 パニックを起こしている千歳を見て、葛は心配そうに眉をひそめた。

「そうか…そうだな。お前にとって俺の家は、鬼門だったな」

 不思議なイキモノがたくさん住んでいる葛家。そこを訪れた際に、彼らの声まで聞いてしまい、話しかけられて気を失ったのは、記憶に新しい話。
 しかし今の千歳にとって、人ではない者のことなど、問題ではなかった。

 ―――ズルいよ、そんな顔するのっ

 残念そうに目を伏せている蓮。どこか辛そうな、悲しげな顔は、千歳の一番気に入っている顔だ。
 でも、だからといって。
 いや、だからこそ。
 この蓮と同じ屋根の下に住むなんて、耐えられるわけがない。

「だってその、僕一人じゃなくて、虎くんも一緒なんだ」
「構わねえよ、一緒に連れて来い。さっきも言ったが、広さだけは十分にある」
「でも、そしたら虎くん、転校しなきゃいけないし」
「お前、今のあたりに住む気なのか?あの辺の地価で、ヒラのサラリーマンが部屋を借りられるとでも?」

 確かに千歳の住んでいるマンションは、都内でも一等地。理子の祖母が多額の遺産を残してくれたからこそ、手に入れられたマンション。
 もちろんそれだけではなく、水商売をしていた理子と千歳、二人分の稼ぎがあってはじめて成り立っていた生活だ。

「それに僕だって、会社離れちゃうし」
「三年前、歩いて行けるところに駅が出来たから、新宿まで一時間かからなねえよ。十分通勤圏内だろ」

 畳み掛けるような蓮の言葉に、千歳のパニックはひどくなるばかり。