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「え…でも僕、高校からずっと葛って呼んでるし」
「だから、今日から」
「そんなこと言われても、なんて呼べば」
「う~ん、同い年なんだから、蓮、とか」
「反対っ」
意外な展開を聞いて、きいっと牙をむく虎臣の反論は、雷馳に口をふさがれ強引に却下されてしまう。
「ほら、呼んでみなよ」
「そ、そんないきなり」
「いいからいいから、呼んで」
躊躇うものの、ここはもう千歳が呼ばなければ収まりそうもない。仕方なく顔を上げ、間近な蓮を見上げて千歳はわずかに首をかしげた。
「…蓮?」
呼んだ途端、恥ずかしさがこみ上げてくる。蓮の逞しい腕に包まれ、その名を呼ぶなんて。高校のころから夢にまで見た瞬間だと、呼んでからようやく思い出した。
慌てて蓮から離れた千歳は、赤くなっている自覚のある顔を伏せて、自分の耳を手で覆ってしまう。
「ちょ、待って!」
「千歳…」
「ごめん、なんか、慣れなくて!すぐ慣れるから今は許してっ」
子供が嫌がるように首を振り、照れて真っ赤な千歳だけじゃない。千歳は背を向けているから見ていないが、呼ばれた蓮も照れているのだろう。口元を手で覆い、家族から視線を逸らせている。
二人の様子を見て、榕子はラジャと、伶志は雷馳と、顔を見合わせた。
――そういうこと?
四人は同じことを考える。
28歳にもなって自覚がないのか。可愛いというより天然記念物だ。
――にぶ過ぎでしょ。
――甘ったるい…
――ちーちゃん可愛いわあ。
――人間とは、不器用なものだな。
それぞれの感想。
暖かく見守る大人たちの中で、唯一虎臣だけは不満もあらわに、嬉しさの隠せない蓮を睨みつけていた。
《ツヅク》