京都のような古い町が、東 千歳(アズマチトセ)はかなり苦手だ。人なのか人以外のものなのか、判別に困るくらい色んなものを見てしまう。
関が原を越えたくらいから、千歳の視界には頭が痛くなるほど、他の人には見えないはずのものが飛び込んできていた。
京都へ向かう新幹線の車内。
カメラマンRenの連載と、「もう一度、修学旅行」と銘打った特集記事の取材を行うため、千歳は京都へ向かっている。掲載号はズレる予定だが、どちらも取材先が京都なので、同級生の蓮と千歳ならちょうどいいから行ってきて、と編集長の岩橋(イワハシ)が提案したのだ。
しかし昨夜のうちに車で出発した葛 蓮(カズラレン)とは、別行動である。
――蓮がいてくれたら、少しはマシなんだけどな…
精神的な頼りになるのはもちろんだが、物理的にも違う。蓮と、蓮にくっついてくる南国荘の精霊たちがいれば、物言わぬ存在が千歳に近づいてこないのだ。それに気付いたのは、最近だけど。
もちろん南国荘の精霊たちに、千歳が少し慣れてきたのも理由だろう。小さな精霊たちは、ラジャの支配下にあるのだと、榕子が言っていた。だから彼らはイタズラ好きではあるものの、悪意を持ってはいないそうだ。
そのせいなのか蓮と一緒にいるとき、千歳の視界は比較的クリア。たとえ怖い思いをしても、蓮が支えてくれる。
ただそういう、依存した状態が良くないと思って、現地ライターとの打ち合わせを理由に、京都までの別行動を決めたのは、千歳自身だった。
今はちょっとだけ、後悔しているけど。
蓮は夜のうちに南国荘を出て行った。
京都北部にある鞍馬に、気に入っている場所があって、夜が明けるまでに着きたいのだとか。
蓮と二人で長距離ドライブなんて、千歳にとってはかなり魅力的な話だったが、公私混同が過ぎるかと別行動を選んだのだ。今日の昼過ぎに合流する予定。
京都駅のホームに降り立ったと同時に、携帯が鳴った。蓮からのメールだ。
――鞍馬は終わった。高雄へ回る。
相変わらずの短い文章に、見事な画像。朝焼けの鞍馬街道だろうか。
――お疲れさま。僕も今、京都に着いたよ。いい写真をお願いします。あと、朝ごはん美味しかった、ありがとう。
編集者プラス友人としての返信。
温めるだけでOKの朝食に、虎臣(トラオミ)の弁当まで用意して、蓮は出発してくれたのだ。
ぐずぐずしている場合じゃない、と千歳は頭を振って、中央改札へ向かって歩きだす。自分も仕事に集中しなければ。
――見えないったら、見えない!
自己暗示をかけながら、現地ライターと待ち合わせている改札へたどりついた。