訴える虎臣の言葉に、千歳は蓮を見上げる。明日からの取材をやめることはできないけど、でも。
「どうしたんだ」
「あ…」
「千歳!」
「と、虎くんが事故に遭って骨折してるかもしれないって…でも僕が帰るまで病院には行きたくないって言ってて」
動揺する千歳に対し、蓮の判断は早い。
「わかった。林さんには俺から連絡する。今から戻るぞ」
「戻るってでも、もう新幹線もないし」
言いながら千歳は、ベッドサイドに備え付けられている時計を見た。すでに日付が変わろうとしている。
「時間は掛かるが、車を飛ばせば朝には着くだろ。伶(レイ)に様子を見てくれるよう連絡するから支度しろ」
「でも、蓮…仕事が…」
「そんなこと言ってる場合か!早く支度しろ!」
「う、うん。虎くん?じゃあ今から帰るけど、出来るだけ伶くんに相談して」
『帰ってきてくれるの?!』
「ちゃんと病院行って診てもらいなさい!朝には戻るからっ」
『うん、待ってる!』
嬉しそうな声で電話を切った虎臣に対し、千歳の顔は真っ青なままだ。
理子(リコ)に連絡するべきだろうか。でも彼女は今、イタリアだ。知らせるならもっと、はっきりしたことがわかってからの方がいいかもしれない。すぐには帰ってこられない理子に、余計な心配をさせるのは、はばかられる。
林と電話で話しながら荷物をまとめた蓮は、厳しい表情で千歳を振り返った。
「細かい荷物は置いておけ。明日には俺が戻るから、ホテルはこのままにする」
「う、うん…わかった」
「しっかりしろ千歳!お前は虎臣の父親なんだろ!」
叱咤する言葉に、千歳はようやく身体を動かした。
着替えている間に蓮が、フロントへの連絡や伶志(レイシ)への電話を済ませてくれる。
夕食のときに虎臣と一緒だったという伶志は、心配しなくてもいいと、蓮に話したらしい。しかしそれを聞いても、千歳の心は少しも落ち着かなかった。
祈るような気持ちで手を握り合わせる千歳を乗せ、蓮の運転する車は東京へ向かった。
《ツヅク》