今までは恋敵だと気を張っていたから、気付けなかったけど。確かにこの男は、千歳が惚れこむだけのものを持っているらしい。
生意気なガキだと言いながら、ちゃんと虎臣のことも気遣ってくれる。毎日こなしている家事だって、蓮でなければあんなに丁寧なこと、出来ないかもしれない。
本心を吐露して自爆していたさっきの蓮の表情は、いつのも無表情よりずっと人間くさかった。虎臣の方も、散々泣き言を聞かれたせいか、心がすっきりしている。
蓮のことが気に入らないのは、変わらないけど。
「なあ、オレが学校行ってる間に、京都へ戻るんだよな?」
「ああ」
「いつ帰ってくんの?もう一回ちゃんと謝りたいけど、帰って来てからになっても千歳さん、聞いてくれるかな?」
「さてね」
「あー!何、その態度!」
「うるさい」
「アンタ大人なんだからさあ、もうちょっと子供に優しく出来ないわけ?」
「相手による」
「榕子さんはあんなに優しいのにな〜」
言いながら虎臣は、自分と蓮を見送る榕子を振り返り、明るい笑顔で手を振った。
「榕子さ〜ん!行ってきますっ」
「行ってらっしゃい、虎ちゃん。気をつけてね!」
手を振りながら、榕子は微笑ましく二人を見送る。
車が去っていくのを確かめて、さてとばかりに二階を見上げた。
千歳の方はどうなっただろう?
ラジャのことを信じているので、あまり心配はしていないのだけど。
榕子は千歳がまだ彼を怖がっていることなどすっかり忘れ、のん気に紅茶を淹れ直していた。
《ツヅク》