【蓮×千歳G】 P:09


 千歳は蓮のそばにいるだけで真っ赤になり、蓮と言葉を交わすだけで、嬉しそうに笑う。
 整った容姿は確かに、その辺のモデルよりカッコイイかもしれないけど。蓮は見た目だけの男じゃない。身の内に熱くてまっすぐなものを秘めている。

「すげえ、ムカつく」
「大体お前、ここを出てどうする」
「なんだよ」
「千歳を一人にはしないんじゃなかったのか?」

 南国荘に来た当初の話を持ち出された虎臣は、涙の跡を拭って、不敵な笑みを浮かべた。

「…しねえし」
「なに?」
「もう一回、ちゃんと謝るもん」
「…おい」
「そしたら絶対、千歳さん許してくれるもん。アンタの代わりになれなくたって、あの人の息子はオレだけなんだから。…大事にされてるもん。アンタなんかに負けないよ」

 恋人にはなれないかもしれないけど、家族であることに変わりはない。責任感の強い千歳が、虎臣を放り出すなんて、ありえない。
 蓮を睨みつけ、虎臣は「負けないから」と繰り返した。
 早々に立ち直りやがって、と蓮は嫌そうな顔になる。溜息を吐きながら、時計を見上げた。

「…時間だな」
「ホントだ、行かなきゃ」

 時計はいつのまにか、7時半を回っている。慌てて歩き出そうとした虎臣だが、思っていたよりも痛む足首に、立ち止まってしまった。
 学校まで30分も掛かるのに。このまま歩いていけるだろうか。

「…ねえこの家、自転車ってないの?」
「自転車通学は禁止されてんだろうが」
「だって思ったより足、痛いんだよ」

 引きずって歩けば学校まで行けないこともないが、着いた途端、貼ってもらったばかりのシップを換えることになってしまいそうだ。
 さっきまで対等に蓮と睨みあっていた虎臣が、急に子供っぽい顔をする。蓮は恩着せがましく溜息を吐いて、手の中のキーをくるっと一回転させた。

「仕方ねえから、送ってやる」

 それを聞いた虎臣は、彼があまり寝ていないことを思い出した。

「いいよ…寝不足なんだろ?」
「この際ついでだ。帰りは雷馳にでも迎えに来てもらえ。…榕子さん」
「は〜い、了解。雷ちゃんが起きて来たら言っておくわ。虎ちゃん、学校終わったら電話して来なさい」
「ありがと、榕子さん」
「行くぞ」
「な〜んか偉そうだよね。ストーカーのくせにさ」
「ガキがうるせえよ。忘れろ」
「やだね!忘れてやんないしっ!」

 足の長い蓮に追いつこうと、急いで歩く虎臣に気付いて、蓮は歩調を緩めてくれていた。