蓮のことは、知らないことのほうが多いのかもしれない。
「でも蓮が、誰より好きなんだよ…」
一緒にいた時間なら、虎臣や理子の方が長いだろう。高校に入るまでにも友達と呼べる人はいた。
それでも千歳は、蓮に惹かれる。
誰でもなく、蓮と一緒にいる時間が一番幸せだ。
「ねえ蓮…どんな子供だった?…傷ついたり、しなかった?」
ラジャから幼い蓮が疑われたと聞くだけで、千歳まで悲しくなってしまう。
小さな蓮はどんなに泣いただろう。榕子に叩かれたとき、理不尽なその手のひらを、どんな思いで見つめていたのか。
もう手出しできない過去のことだとわかっているのに、そばにいてあげたかったなんて、我が侭な思いが胸を突く。
頬に触れていた手で蓮の背中をゆっくり撫でながら、千歳はもう一度目を閉じた。
蓮の息に呼吸を合わせ、身体の力を抜いていく。心地いい体温に包まれながら、千歳はさっきまで話していた、ラジャのことを考える。
自分も父親のつもりだと言っていたラジャ。蓮の方はどう思っているのだろう。
――聞いたら、教えてくれるかな…
今まであえて避けてしまっていたが、榕子にもラジャにも、聞いてみたいことはたくさんある。
ヒトは間違うものだと、ラジャが言っていた。だったら今からでも遅くないのかもしれない。大切な家族のため、ちゃんとした父親になれるよう、考えていこう。
…そんな風に、考え事をしていられたのは、ほんの短い時間だった。
寝ることを諦めたはずの千歳も、しだいに息が深くなって、思考が回らなくなっていく。
二人は携帯電話のアラームが喚きだすまでの短い時間、肌を寄せ合って眠った。
《ツヅク》