【蓮×千歳I】 P:12


「あの…」
「そんなに聞きたいのか、俺の話」

 蓮の腕の中、間近になった蓮の真剣な眼差しに、千歳は顔を赤くしながら頷いた。

「聞きたい」
「…先に言っておくが、そうとう情けない話だぞ。いいんだな?」
「うん」
「聞いたら最後だぞ、千歳。二度と離してやらないからな」

 蓮の胸に手を当てていた千歳は、それをきゅっと握り締めた。
 心臓がドキドキしている。
 それがどんな話でも、聞かせて欲しい。離さないというなら、ずっと離さないでいて欲しい。

「離れない…聞いても、聞かなくても…もう蓮と離れたくない…」
「…わかった」

 ちゅっと軽く唇を吸われ、陶然とした表情になった千歳は、蓮に抱きしめられたまま、慌てて後ろを振り返る。
 そこにはまだ、にこにこ笑うラジャが自分たちを見守っているのだ。

「ちょ、あの…でもここじゃ」
「なんだ」
「だってまだそこに…ラジャさんが、いるから…」

 耳まで赤くなって下を向いてしまう。そんな千歳を見て蓮は、思いっきり溜息を吐き出した。

「出歯亀か」
「ちょっと、蓮っ」
『酷いことを言うね、この子は』
「すいませんラジャさん…」
「行くぞ千歳。…ついてくんなよ」

 言い捨てるや否や千歳の手を掴み、蓮は自分の部屋へ向かう。慌てて振り返る千歳に、ラジャが苦笑いを浮かべていた。

『息子が恋人を連れ込んだ部屋を黙って覗くほど、無粋ではないよ』
「ラジャさん、ありがとうっ」

 蓮に引っ張られながら、かろうじて感謝の言葉を残していった千歳。
 不器用な子供たちが去っていくのを見つめていたラジャは、しばらく笑顔のまま手を振っていた。


《ツヅク》