「あの…」
「そんなに聞きたいのか、俺の話」
蓮の腕の中、間近になった蓮の真剣な眼差しに、千歳は顔を赤くしながら頷いた。
「聞きたい」
「…先に言っておくが、そうとう情けない話だぞ。いいんだな?」
「うん」
「聞いたら最後だぞ、千歳。二度と離してやらないからな」
蓮の胸に手を当てていた千歳は、それをきゅっと握り締めた。
心臓がドキドキしている。
それがどんな話でも、聞かせて欲しい。離さないというなら、ずっと離さないでいて欲しい。
「離れない…聞いても、聞かなくても…もう蓮と離れたくない…」
「…わかった」
ちゅっと軽く唇を吸われ、陶然とした表情になった千歳は、蓮に抱きしめられたまま、慌てて後ろを振り返る。
そこにはまだ、にこにこ笑うラジャが自分たちを見守っているのだ。
「ちょ、あの…でもここじゃ」
「なんだ」
「だってまだそこに…ラジャさんが、いるから…」
耳まで赤くなって下を向いてしまう。そんな千歳を見て蓮は、思いっきり溜息を吐き出した。
「出歯亀か」
「ちょっと、蓮っ」
『酷いことを言うね、この子は』
「すいませんラジャさん…」
「行くぞ千歳。…ついてくんなよ」
言い捨てるや否や千歳の手を掴み、蓮は自分の部屋へ向かう。慌てて振り返る千歳に、ラジャが苦笑いを浮かべていた。
『息子が恋人を連れ込んだ部屋を黙って覗くほど、無粋ではないよ』
「ラジャさん、ありがとうっ」
蓮に引っ張られながら、かろうじて感謝の言葉を残していった千歳。
不器用な子供たちが去っていくのを見つめていたラジャは、しばらく笑顔のまま手を振っていた。
《ツヅク》