初恋は実らない、なんて言う人もいるけど。十年越しの恋を手に入れた東 千歳(アズマチトセ)は、初めて経験する本当の恋愛に、毎日翻弄されっぱなしだ。
なんだかずっと浸っていたいような、今すぐにでも逃げ出したいような、くすぐったい気分。
「千歳…」
耳元で囁く葛 蓮(カズラレン)の低い声が、いつまでも響いている。それが現実なのかどうかさえ、今の千歳には判断が難しい。
千歳は溜息を吐いて寝返りを打った。
十年前に夢見ていた、甘い生活。
飽きるまで蓮を見つめ、思う存分彼に懐いても、咎める者はいない。そうしていられる権利を、やっと千歳は手に入れた。
広い腕の中に千歳を閉じ込め、抱きしめてくれるようになった蓮は、あの頃と変わらない瞳で、千歳を支えていてくれる。
でもそんな日々の中に、新しい発見もたくさんある。
最初に身体を重ねた夜は、あんなに優しかった蓮なのに。本気になった彼は、優しいだけの男じゃなかった。
けっこう意地悪で、そうとう強引。
泣くまで焦らされたこともあるし、きわどい言葉も強要される。
まだまだ愛撫に慣れなくて、些細なことでも動揺し、真っ赤になってしまう千歳の方にも、問題があるのかもしれない。蓮は嫌がる千歳を労わるどころか、面白がって弄ぶのだ。
「千歳?」
「ん…」
こうやってまどろみの中、甘く名前を呼んでもらっているときが一番幸せ。
それ以上になると、千歳は台風に巻き込まれたかのように、身体も心も振り回されっぱなしだ。
ただ蓮の声にだけ溺れていられる快感。千歳は枕を引き寄せて、笑みを浮かべている。
千歳のその、幸せそうな顔を見つめているのだろう。蓮の苦笑いする気配がして、それから耳たぶの下の辺りに、柔らかいものを押し付けられた。
「千歳…」
「ぁ…ん、や…」
「いいのか?遅れるぞ」
ゆっくりのしかかってくる重み。ごそごそと布団の中に侵入し、千歳の足を探る大きな手。
「ん…い、い」
「起きろよ、千歳」
「れ、ん…きも、ち…い」
起きなきゃ、と思う気持ちが、暖かい温度に霧散してしまう。
ふかふかした布団と、自分のものより大きな枕。あと、肌に触れる蓮の手。
まったく起きる気配のない千歳の耳に、くすくす笑う声が聞こえて。
やんわりと握られた感覚に、千歳の眠気は一気に覚めた。
「ちょ…ちょっと!」
ぱちっと目を開けば、間近に蓮の顔。