「日本では挨拶代わりにハグしたりするなって、陣(ジン)さんに言われてただろうが」
「コレはアイサツじゃないヨ」
「…なに?」
「キミをアイシテルから。だから、触れタイんだ」
「待て、おい、咲良?」
何が起こっているのか、サクラという人以外には、その場の誰にも理解できなかった。
彼はイントネーションがおかしいものの、ちゃんと日本語を話しているのに。内容が頭に入らない。
「キミが欲しい。他のダレでも代わりにはナラナイ」
「…あのな」
「アイシテル」
ふっと声が低くなる。いきなり艶めいて、甘い響きを帯びる。
大きな後姿でも、蓮さんが引き寄せられているのはわかった。
目をそらした方がいいのかもしれないけど、あまりのことに自分の視線さえ自由にならなくて。でも蓮さんは、ぼくの荷物を素早く下に置くと、強い力で外国人の彼を押し戻す。
嫌そうな顔。当然だ。
普通の男なら、同じ男にせまられて嬉しいはずがない。そんなこと……誰にでも、わかるはず。
「血迷うな。俺は男だ」
やっぱり蓮さんは、そんな言葉で彼の行動を拒絶した。でもサクラという人は、少しも怯まなかった。
「ワカッテル」
「お前…」
「でもボクはゲイだから。何も問題ナイヨ」
彼は堂々と、きっぱり言い切った。
さすがに蓮さんも、すぐには言葉を紡げないみたいだ。
どうして彼は間違っているのに、こんな明るい声で宣言するんだろう。
……だってそんなこと、間違ってる。とても不自然で、許されないことなのに。
首を傾げた外国人が、不思議そうにぼくと東さんを振り返る。
動けないでいたぼくは、自分が青ざめているのに気付いていた。
《ツヅク》