モデルみたいに背が高くて、整った容姿のその人。外見は全然違うのに、内側から放たれている威圧感や存在感が……ぼくの一番恐ろしい人を、思い出させた。
「蓮、彼が話していた二宮くん。二宮…蒼紀くん、だったよね?」
立ち竦んでいるぼくに、蓮と呼ばれたその人はゆっくり近づいてくる。
手を伸ばされた瞬間、びくっと身体が震えたけど。彼は何も言わずに、ぼくの荷物を持ってくれただけだった。
「す、すいません」
「気にするな」
「二宮くん、彼は葛(カズラ)蓮。この南国荘の家主である榕子(ヨウコ)さんの息子で、僕の…トモダチ?」
「ま、そんなところだな」
二人は面白そうに顔を見合わせ、笑う。
そうだ。葛さんは、あの人じゃないんだから。
息を整え、ぼくは葛さんに向かって頭を下げた。
「二宮蒼紀です。ご迷惑をおかけしてすいません、葛さん…」
「蓮で構わねえよ」
「南国荘には4人も葛さんがいるから、二宮くんも蓮って呼んでね」
「どうせ部屋の余ってる家だ。お前がいいなら、当分はここにいろ」
なんだか会社では見たこともないくらい、楽しそうな顔の東さんが意外で。ぼくが驚きながら二人の言葉を聞いていたとき、何かに気付いた葛さん……じゃなくて、蓮さんが視線を上げた。
「咲良(サクラ)?」
「レン!」
すごく明るくて、大きな声。
蓮さんも驚いて少し目を見開いてる。
「お前…一人で来たのか?よくたどり着けたな」
後ろから近づいてくる足音。振り返るとそこには、背の高い蓮さんよりもさらに大柄な外国人が、満面の笑顔で走ってくる。
明るい栗色の髪と、白い肌。分厚いコートを着ているけど、かなり体躯のいい人だということはすぐわかった。
もしかしてこの人が、ぼくと同じように今日から南国荘に住むという人だろうか。
蓮さんにサクラと呼ばれた外国人は、ぼくの横を抜け、嬉しそうな表情で蓮さんの前に立っている。
「連絡すれば迎えに行ったのに」
「ボクを待っててくれたの?レン」
「当たり前だろ」
じゃあ、このサクラという人も初めて南国荘へ来たのかな?
そんなことを、のんきに考えていたときだ。彼はいきなり蓮さんを抱きしめ、頬に口付けた。
「え…?」
目を見開いてしまう。そんなこと、いきなり何の前触れもなく。
まさかこの南国荘では当たり前のことなんだろうかと、焦って東さんを見たら、東さんも驚いたのか表情を強張らせていた。
蓮さん自身にも予想外だったんだろう。不機嫌そうに眉を寄せている。
「おい、咲良」
「会いたカッタ…トテモ会いたカッタんだレン」