そんなにびっくりさせたかな?
でもレンは迷惑そうな顔をしたものの、ボクの言葉に嫌悪感を持ったわけじゃないみたいだ。
愛していると囁いたボクに、自分は男だと拒絶したレン。
だけどボクはゲイだから、レンが同じ男でも何の問題もないと言った時。
レンは一瞬、驚いた顔をして。すぐに眉を寄せた。
大きくため息を吐いた彼に「俺にお前の性嗜好なんか関係ない」と言い返されたけど。大丈夫、きっとその気にさせてみせるから。
生まれ育ったギリシャから、留学先である日本へ来て、憧れ続けたレン・カズラ(葛 蓮)に出会えたボクは、かなり浮かれてる。
父の撮った写真では、可愛いばかりだったレン。実際に会ってみると彼は、想像していたよりずっと、男っぽい人だった。
でもボクを惹きつけてやまないのは、変わらない。とても魅力的な人なんだ。
今日、初めて訪れたレンの家。南国荘(ナンゴクソウ)。
春からの留学に向けて住むところを探していたボクは、その南国荘にたくんさんの人が住んでいるのを知って、一緒に住みたいとお願いした。
レンはイトコや友達と住んでるんだって。だったらボクもレンと一緒に暮らしたいと思ったんだ。
レンのそばにいて、もっといろんな表情を見たい。
一生懸命お願いしたら、レンはだいぶ困ってたみたいだけど、最後には引き受けてくれたんだ。残念ながらボクのためじゃなくて、レンの恩人である父のジンが、一緒に頼んでくれたからだけどね。
でも今回の滞在は一週間だけ。
手続きや本格的な準備のために、一度ギリシャへ帰国しなくちゃならないんだ。
その名のとおり、南国の緑に囲まれたレンの家。
上から見たら、コの字型になってるんじゃないかな。門から入ってすぐの中庭を囲むように、建てられている屋敷。
真ん中が奥まっていて、その両端から延びている棟には大きな窓が並んでる。
ガラス越しに廊下が見えたように思ったけど、あまりにたくさんの緑で遮られ、よく見えなかった。
今ボクはその、とても大きな南国荘の中を、レンの案内で歩いている。
二階にあるという部屋へ向かいながら、レンはボクが着いた時、玄関先で話していた二人を紹介してくれた。
「東 千歳(アズマチトセ)と二宮蒼紀(ニノミヤアオキ)だ。二宮はお前と同じ、今日からここに住むことになった」
小柄な二人を振り返る。
さっきまで青ざめていた彼らは、曖昧な表情でボクを見ていた。
二人はボクの言葉を聞いて、レン以上に驚いてしまったみたいだ。アオキの方はまだ少し、顔色が悪い。
「こいつは六浦(ムツウラ)…。咲良(サクラ)、自分で名乗れ」
面倒そうに言われてしまう。
レンもいつか、ちゃんとボクの名前を覚えてくれるといいな。