【南国荘U-B】 P:01


 そんなにびっくりさせたかな?
 でもレンは迷惑そうな顔をしたものの、ボクの言葉に嫌悪感を持ったわけじゃないみたいだ。

 愛していると囁いたボクに、自分は男だと拒絶したレン。
 だけどボクはゲイだから、レンが同じ男でも何の問題もないと言った時。
 レンは一瞬、驚いた顔をして。すぐに眉を寄せた。
 大きくため息を吐いた彼に「俺にお前の性嗜好なんか関係ない」と言い返されたけど。大丈夫、きっとその気にさせてみせるから。

 生まれ育ったギリシャから、留学先である日本へ来て、憧れ続けたレン・カズラ(葛 蓮)に出会えたボクは、かなり浮かれてる。
 父の撮った写真では、可愛いばかりだったレン。実際に会ってみると彼は、想像していたよりずっと、男っぽい人だった。
 でもボクを惹きつけてやまないのは、変わらない。とても魅力的な人なんだ。

 今日、初めて訪れたレンの家。南国荘(ナンゴクソウ)。
 春からの留学に向けて住むところを探していたボクは、その南国荘にたくんさんの人が住んでいるのを知って、一緒に住みたいとお願いした。
 レンはイトコや友達と住んでるんだって。だったらボクもレンと一緒に暮らしたいと思ったんだ。
 レンのそばにいて、もっといろんな表情を見たい。
 一生懸命お願いしたら、レンはだいぶ困ってたみたいだけど、最後には引き受けてくれたんだ。残念ながらボクのためじゃなくて、レンの恩人である父のジンが、一緒に頼んでくれたからだけどね。
 でも今回の滞在は一週間だけ。
 手続きや本格的な準備のために、一度ギリシャへ帰国しなくちゃならないんだ。

 その名のとおり、南国の緑に囲まれたレンの家。
 上から見たら、コの字型になってるんじゃないかな。門から入ってすぐの中庭を囲むように、建てられている屋敷。
 真ん中が奥まっていて、その両端から延びている棟には大きな窓が並んでる。
 ガラス越しに廊下が見えたように思ったけど、あまりにたくさんの緑で遮られ、よく見えなかった。
 今ボクはその、とても大きな南国荘の中を、レンの案内で歩いている。
 二階にあるという部屋へ向かいながら、レンはボクが着いた時、玄関先で話していた二人を紹介してくれた。

「東 千歳(アズマチトセ)と二宮蒼紀(ニノミヤアオキ)だ。二宮はお前と同じ、今日からここに住むことになった」

 小柄な二人を振り返る。
 さっきまで青ざめていた彼らは、曖昧な表情でボクを見ていた。
 二人はボクの言葉を聞いて、レン以上に驚いてしまったみたいだ。アオキの方はまだ少し、顔色が悪い。

「こいつは六浦(ムツウラ)…。咲良(サクラ)、自分で名乗れ」

 面倒そうに言われてしまう。
 レンもいつか、ちゃんとボクの名前を覚えてくれるといいな。