「六浦ミルティアディス咲良デス。咲良でイイヨ、ボク名前ムズカシイみたいダカラ。ヨロシクね、チトセ、アオキ」
「こちらこそよろしくね、じゃあ…えっと、咲良くん?」
「うん」
少し困ったような顔で笑ったのがチトセ。
可愛い人だな。写真で見たレンの可愛さとは違う、小柄で華奢で、優しい雰囲気だ。
そんな彼は先に階段を上るボクを見上げていたけど、ふいに何かに呼ばれたみたいな顔になって、その場に立ち止まり振り返った。
「ただいま、ラジャさん。大丈夫ですよ…気にして、ないです」
少しだけ視線を上げて呟いたチトセ。でもその視線の先……誰か、いる?ラジャ?
チトセの言葉が理解できなくて、首を傾げていたボクは、同じように立ち止まって戸惑っているアオキと目が合った。
彼はすごく慌てた様子で、丁寧に頭を下げてくれる。
「二宮です…よろしくお願いします」
ゆっくり顔を上げたアオキは、なんだか倒れてしまうんじゃないかって心配になるくらい、細い身体。顔色だってまだ戻ってない。
きゅっと自分の身体を抱きしめている姿が幼く見えるから、そう思うのかな。
「ねえアオキ。アオキって呼ぶのダメ?」
「え?」
「レン、キミをニノミヤって呼んだ。いまアオキもニノミヤって、ジブンのコト」
「あ…えっと、そうじゃないんです。蒼紀で大丈夫です」
「うん。ダメじゃないナラ、ヨカッタ」
「すいません」
「?…どうしてスイマセン?」
アオキは何も悪いことしてないのに、どうして謝るんだろう。
でも答えを聞く前に、レンが階段の上からボクらを呼んだ。
「おい、来ないのか」
「いま行くヨ!」
慌ててレンを追いかけ、階段を駆け上がる。
「ねえレン、チトセは誰と話しテルノ?」
「ああ…その件は、後で説明する」
少し眉を寄せながら答えたレンは、ボクに続いて二階へ上がってきたアオキに視線を向けた。
「二宮、ちょっと待ってろ」
「はい」
「お前の部屋はこっちだ、咲良」
そう言いながら、レンは二階のホールを階段と反対側へ歩いていく。後を追ったボクのために、奥に並んだ部屋のうち、一番端のドアを開けてくれた。
覗いてみると、すっきりとした部屋の中にベッドや机が置いてある。
「この部屋を使ってくれ」
「ボクの部屋?」
「そうだ。これが鍵」
手渡された鍵を受け取って、離れていくレンを、視線でだけ見送る。
「待たせたな、お前はこっちだ」
階段を上がったところで待ってるアオキを、ボクとは反対側にある部屋へ案内しているみたい。
その声を聞きながら、ボクは新しい住まいとなる部屋に足を踏み入れた。
ちょうどギリシャの自分の部屋と、同じくらいかな。物がないから、もう少し広く見えるけど。