「…東(アズマ)さんは、蓮(レン)さんと付き合ってるんですか…?」
ぼくは思わず、みんなの会話に口を挟んでしまった。
今日、初めて訪れた南国荘(ナンゴクソウ)。
バイトで失敗して、ケガをした挙句クビになって。お金も住むところも失くしたぼくのこと、同じ出版社に勤めていた東さんが、連れてきてくれたんだ。
ちゃんとした生活を出来なければ、先のことなんか考えられないから。ぼくにはしばらく、落ち着いて暮らせる環境が必要だと、東さんは諭してくれた。
彼の優しさが、本当に嬉しくて。迷惑をかけることは承知で、東さんの言葉に甘えることにしたんだ。
ぼくと同じように、今日から南国荘に住むことになっていた咲良(サクラ)さんと、元から南国荘に住んでいた皆さんと、一緒に囲んでいた夕食。
そこで咲良くんが蓮さんのことを好きなのだと知り、しかも蓮さんは、千歳さんと付き合っているのだと聞かされた。
その話が、あまりにも信じられなくて。ぼくは碌に考えることもなく、口を開いてしまったんだ。
蓮さんのことを、友達だと紹介した東さんなのに。自分には離れて暮らしている奥さんと、その奥さんの連れ子である息子さんもいると言っていたのに。
「でも、さっきは友達だって」
「ごめんね、ちょっと、言いにくくて」
「同性の蓮さんと、本当に付き合ってるんですか?」
「二宮(ニノミヤ)くん…」
「そんなの、おかしいじゃないですか」
あまりにも普通じゃない。
そんなの、間違ってる。
だからつい、口調が責めるようになってしまった。
「やめろ二宮」
身勝手なことを口走ったぼくは、蓮さんから鋭い声で諌められる。
目が合った。
彼の目にはぼくに対する不快感が、露に浮かんでいた。
静かな怒りを感じたぼくは、自分がどんなに愚かな言葉を口にしたか思い知って、恐ろしさに身が竦んでしまう。
「お前が意見することじゃない」
「あ…す、すいません」
ぼくは何を馬鹿なこと……関係のないぼくが、こんなにも親切にしてくれる東さんに、なんてことを。
頭の奥の方がどくどく脈打って、痛いくらいだ。自分のしたことに対する後悔と、どんなに蓮さんを、この場にいる他の皆さんを怒らせたんだろうって思うと、怖くて指先が冷たくなっていく。
「すいません、東さん…余計なこと言いました」
「うん…あの、気にしないで。ちゃんと説明せずに連れて来た、僕も悪いんだし」
「そんなこと」
「二宮くん、ここに住むの嫌になった?もしそうならどこか別の家を考えるけど…」