【南国荘U-C】 P:02


「ち、違います。東さんには感謝してるし、嫌とかじゃなくてその、信じられなくて、それだけで」
「…うん」
「大丈夫です。あ…大丈夫っていうのも失礼ですよね…すいません…ぼく」

 どう言っても言い訳にしかならない。
 なんと謝罪したら、許してもらえるんだろう。どうしてぼくはいつも、人を嫌な気持ちにさせるばかりなんだろう。
 逃げ出したくて、苦しくて。
 震える指先を握り締めていたら、東さんの息子の虎臣(トラオミ)くんが、やんわりした声で間に入ってくれた。

「びっくりしただけ。だよね?」

 顔を上げるとそこには、南国荘に来る途中に東さんから見せてもらった、携帯電話の画面で笑っていたのと同じ、優しく笑う虎臣くんがいた。
 そんな彼の顔を見て、泣きたくなるくらいほっとしたんだ。
 中学生の彼に庇われているなんて、情けないにもほどがある。でも彼の顔を見ていたら、どうしてなのかわからないけど、きっと守ってくれるって。信じることができた。
 ぼくの愚かな発言が消えてしまうわけじゃないのに、それでも……少しだけ、安心したんだ。

「なあ、もうこの話はいいじゃん。何を言ったって事実は変わらないんだし。それにさ、どうせみんな今からお酒、飲むんでしょ?」

 凍り付いていたような、その場の雰囲気が優しいものに変わる。
 肩を竦めて話を変えてしまった虎臣くんは、心配そうに東さんを見て、それからぼくの顔を見ると、悪戯っぽく片目を瞑って見せた。

「そうね。お料理も全部、揃ったみたいだし。蓮ちゃん、ワイン出してきて」
「さっくんいるんだから、日本酒の方が良くない?焼酎とか」
「…榕子さん…いつもワイン…」
「そっか。じゃあ蓮さん、ワインと日本酒と焼酎。よろしくお願い」
「俺は今、座ったとこなんだぞ」

 慌てて代わろうとした東さんを制し、蓮さんは溜息を吐きながら立ち上がる。そのままぼくを見ようとせず、さっきまで料理をしていたキッチンへ戻っていった。
 ぼくの愚かさに、この人がどれほど憤っているのかと思うと、身動きが出来ない。
 どうしよう、どうしようって。
 うまく考えることも出来ず、俯いて身を固くしていたぼくは、誰かからケガをしていない方の肩を叩かれ、びくっと顔を上げた。

「オレらも何か飲もうよ。二宮さんもまだ未成年だって言ってたよね」
「虎臣くん…」

 肩を叩いたのは、いつの間にか立ち上がって隣にいた虎臣くんだ。

「色々あるから、一緒に選んで?」

 こっちだよって、ぼくを連れ出そうとしてくれる。