ちゃんと、謝らなくちゃ。蓮さんが怒る前に。
もう怒ってるかもしれないけど、でも早く謝らないと。
「すいません、ぼく…勝手に」
「そうじゃないだろ。お前、肩は大丈夫なのか?」
「は、はい」
「痛みが酷くなったり、してないだろうな」
「大丈夫、です」
「そうか」
話しながらぼくの方へ近づいた蓮さんが手を上げる。
何をされるのか身体を竦めたぼくの頭に、蓮さんはぽん、と軽く手を乗せた。
「治るまでは、無茶するな」
「…すいません」
「いや、助かった。ありがとう」
「え?」
「気になって早く帰って来たんだ」
撫でる代わりといった感じで、蓮さんは何度か、優しくぼくの髪を叩いている。
理解、できなくて。
だってまさか、蓮さんがぼくにそんなこと言うなんて。
そんなこと、あるはずないのに。
でも……。
「ねえレン、アシタはドコでサツエイ?」
「また来る気か?」
「イッショに行くの、ダメ?」
「当たり前だろ。そうそうお前みたいなデカいの連れて、仕事ができるか。明日は来るなよ」
「え〜…ザンネン」
「どうせ明日は撮影じゃない。打合せだ」
「そんなレンも見タイな」
「迷惑だ」
「ヒドイよ、アイシテルのに」
「関係ない」
「あら、じゃあさくらちゃん、明日は近所にあるお寺へ行ってきたら?とても素敵なところなのよ」
「お寺?!チカク?」
「ええ」
嬉しそうに場所を尋ねている咲良さんの言葉も、鬱陶しそうに溜息を吐いている蓮さんの声も、何も耳に入らない。
さっき言われた「ありがとう」と、頭に置かれたままの蓮さんの手の重さと。
その時のぼくは、自分がどんな顔をしているのかさえ、理解できていなかった。
窓を叩く雨音に気付いて、顔を上げる。やっぱり降って来たんだ。
そうしたら、ぼくを見下ろす蓮さんと目が合った。
彼はふっと口元に笑みを浮かべて「ありがとうな、二宮」と、もう一度呟いた。
《ツヅク》