ズルいなあ……蓮(レン)さんのアレ、犯罪だよ。無自覚な所が怖いよね。
南国荘(ナンゴクソウ)の賑やかな毎日に、咲良(サクラ)さんと二宮(ニノミヤ)さんという、新たな住人が加わって三日目。
オレ、東 虎臣(アズマトラオミ)は、自分の苦労が一瞬で吹っ飛んだのを、目の当たりにしてる。
「助かった。ありがとう」
「え?」
「気になって早く帰って来たんだ」
蓮さんにそう言われ、驚いた様子の二宮さんは、呆然とした表情で蓮さんを見つめていた。頭に置いた手を何度かポンポンって、子供にするみたいなことをされて、二宮さんの顔が赤くなっていく。
ほんと、ズルイよね。
オレがどんなに「大丈夫だよ」って言っても、あんな顔してくれなかったのに。
蓮さんに代わって洗濯物を取り入れた二宮さんは、ずっと露骨に後悔してる顔をしていた。どうしよう、どうしようって、顔に書いてあったんだ。
なんだか二宮さんは、南国荘に来た日からそんな感じ。オレにはどうしてかわからないけど、いつもどこか辛そうで、申し訳なさそうなんだ。
そういう姿を見てると、なんとなく昔の千歳さんを思い出す。大学生の頃とか、会社に入ったばっかりの頃とかね。
千歳さんはあんなに優しくて、気のつく人なのに、いつも自信なさげな、寂しそうな顔をしていたんだ。
だからオレは、二宮さんが気になって仕方なくて。千歳さんみたいに笑えるようになればいいなって、思って。色々と声をかけてみたり、話しかけたりするんだけど。
でも、子供のオレがどんなに頑張ってみても、蓮さんの言葉一つに敵わない。
「ねえレン、アシタはドコでサツエイ?」
「また来る気か?」
「イッショに行くの、ダメ?」
「当たり前だろ。そうそうお前みたいなデカいの連れて、仕事ができるか。明日は来るなよ」
「え〜…ザンネン」
咲良さんの言葉に答えながら、蓮さんはずっと二宮さんの頭に手を置いている。
アレ、たぶん無自覚なんだ。
蓮さんは言葉少ない人だし、表情に乏しいから、冷たい印象を受けるけど。本当は全然そんなことないんだよ。
ずーっと千歳さんだけを、愛し続けていた蓮さん。実は情熱的な人なんだって、もう知ってる。
恋愛関係だけじゃないよ。
この家の全部を管理している蓮さんは、ああ見えてけっこう世話焼き。
お前らの好みなんか知らねえよ、って口では言いながら、ちゃんとみんなのことを考えている。
伶志(レイシ)が甘いもの大好きなのも、オレがいまだに野菜苦手なのも。ちゃんとわかってるんだ。