【南国荘U-D】 P:02


 だから伶志の仕事明けには必ずデザート用意するし、オレには野菜だけを出したりしない。
 もう、本気で敵わない。ムカつく。
 しかも最近じゃ、そんな蓮さんに自分が甘えてるってわかってるから、余計に腹が立つんだ。
 なんであの人だけ、そんな何でもかんでも出来ちゃうわけ?
 世の中って不公平だよね。

「どうせ明日は撮影じゃない。打合せだ」
「そんなレンも見タイな」
「迷惑だ」
「ヒドイよ、アイシテルのに」
「関係ない」
「あら、じゃあさくらちゃん、明日は近所にあるお寺へ行ってきたら?とても素敵なところなのよ」
「お寺?!チカク?」
「ええ」

 嬉しそうに榕子(ヨウコ)さんから、お寺の情報を聞き出している咲良さんは、蓮さんが大好き。南国荘に来てからヒマさえあれば蓮さんにくっついて、
口説きまくっている。
 蓮さんを押し倒したいなんて、あまりにも無謀だよね。
 伶志も笑ってたし、オレも最初に聞いたときは、ちょっと笑ってしまった。
全然想像つかないよ。あの人にナニかをヤろうなんて。ギリシャ人すげえって思った
 でもオレは最近、その考えを改め始めてるんだ。
 だって、自分が笑われたら、どう思う?
 すごい好きな人がいて、どうしても会いたくて、海外に住んでるその人のところまで来たとして。そんな自分の想いを、
周りの人に笑われたら。
 オレだったら、めちゃくちゃムカつくと思う。ふざけんな!って、怒鳴り散らしていてもおかしくない。
 でも咲良さんは、そんなに笑うこと?って言っただけで、怒ったりはしなかった。
 あの時にオレ、咲良さんの懐の深さを知って、ちょっと尊敬したんだよね。

 話している途中に、やっぱり雨が降ってきた。洗濯物を取り込んだ二宮さんの判断は、間違っていなかったんだ。
 良かったね、って言おうとしたオレの、視線の先。窓の外を見ていた二宮さんが、蓮さんの顔を見上げた。
 目の合った蓮さんは、
同じ家に暮らしていてもなかなか見られない、レアな笑顔を浮かべて。二宮さんの髪をゆっくり撫でた。

「ありがとうな、二宮」

 静かな呟きは、まるで囁いているみたい。当然二宮さんは顔を真っ赤にして、俯いてしまう。
 だからアンタ、ズルいって。
 ナニその笑顔。超ムカつく。
 咲良さんの気持ちを迷惑がっているくせに、気が向いたらそんなフェロモン全開の笑顔を、誰にで向けてしまうんだ。
 あーもう、千歳さんかわいそう。
 ただでさえ心配性なんだから。
あんまり心配させないでほしいんだよね。