だから伶志の仕事明けには必ずデザート用意するし、オレには野菜だけを出したりしない。
もう、本気で敵わない。ムカつく。
しかも最近じゃ、そんな蓮さんに自分が甘えてるってわかってるから、余計に腹が立つんだ。
なんであの人だけ、そんな何でもかんでも出来ちゃうわけ?
世の中って不公平だよね。
「どうせ明日は撮影じゃない。打合せだ」
「そんなレンも見タイな」
「迷惑だ」
「ヒドイよ、アイシテルのに」
「関係ない」
「あら、じゃあさくらちゃん、明日は近所にあるお寺へ行ってきたら?とても素敵なところなのよ」
「お寺?!チカク?」
「ええ」
嬉しそうに榕子(ヨウコ)さんから、お寺の情報を聞き出している咲良さんは、蓮さんが大好き。南国荘に来てからヒマさえあれば蓮さんにくっついて、口説きまくっている。
蓮さんを押し倒したいなんて、あまりにも無謀だよね。
伶志も笑ってたし、オレも最初に聞いたときは、ちょっと笑ってしまった。全然想像つかないよ。あの人にナニかをヤろうなんて。ギリシャ人すげえって思った。
でもオレは最近、その考えを改め始めてるんだ。
だって、自分が笑われたら、どう思う?
すごい好きな人がいて、どうしても会いたくて、海外に住んでるその人のところまで来たとして。そんな自分の想いを、周りの人に笑われたら。
オレだったら、めちゃくちゃムカつくと思う。ふざけんな!って、怒鳴り散らしていてもおかしくない。
でも咲良さんは、そんなに笑うこと?って言っただけで、怒ったりはしなかった。
あの時にオレ、咲良さんの懐の深さを知って、ちょっと尊敬したんだよね。
話している途中に、やっぱり雨が降ってきた。洗濯物を取り込んだ二宮さんの判断は、間違っていなかったんだ。
良かったね、って言おうとしたオレの、視線の先。窓の外を見ていた二宮さんが、蓮さんの顔を見上げた。
目の合った蓮さんは、同じ家に暮らしていてもなかなか見られない、レアな笑顔を浮かべて。二宮さんの髪をゆっくり撫でた。
「ありがとうな、二宮」
静かな呟きは、まるで囁いているみたい。当然二宮さんは顔を真っ赤にして、俯いてしまう。
だからアンタ、ズルいって。
ナニその笑顔。超ムカつく。
咲良さんの気持ちを迷惑がっているくせに、気が向いたらそんなフェロモン全開の笑顔を、誰にで向けてしまうんだ。
あーもう、千歳さんかわいそう。
ただでさえ心配性なんだから。あんまり心配させないでほしいんだよね。