「ザアザア、シトシト、パラパラ。…アメオトの表現はタクサンあるデショ」
発音はともかく、いつもは流暢に日本語を操っている咲良さんなのに。オレは小さく笑ってしまった。
「咲良さん、それアマオト」
「アマオト?」
「そう。雨の音って書いて、アマオトって読むんだよ」
「ナルホド…ニホンゴはムズカシイ」
困った顔をして、何度か「アマオト、アマオト」と繰り返していた咲良さん。彼はオレを見下ろして、柔らかく微笑んだ。
「トラオミはヤサシイね」
「え…オレ?」
「確かにレンが笑いカケタのは、ボクじゃないケド。悲しいワケじゃナイヨ。ちょっとヤキモチなダケ。ダカラ…心配しなくても、ダイジョーブ」
気持ちを見透かされて、恥ずかしくなってしまう。照れ隠しに頬を掻きながら、咲良さんを見上げた。
「えーっと、余計なお世話だった?」
「ソンナことない。ウレシイよ」
にこっと笑う咲良さんの瞳。茶色っていうより、もっと黄色っぽい色なんだ。
黄色は変かな?透明感があるから、角度によっては濃い金色みたいな。きれいな色。
こんな近くで咲良さんの顔を見たのって、初めてかもしれない。
髪も瞳も今まで、単に淡い茶色だと思ってた。でも近くで見ると、本当にきれいな色をしてるんだ。日本人に比べて肌が白いから、そういう色がすごく似合う。
ほんとにさ……相手が蓮さんじゃなかったらオレ、咲良さんのこと全力で応援できるのにな。
「ねえ、咲良さん。明日晴れたら、北町のお寺行くの?」
「ン?ソウダネ。木造建築はボクの専門ダカラ。見てオコウとオモッテる」
「じゃあさ。もし昼からでもいいなら、オレ案内しよっか?行ったことあるし」
北町のお寺は公園みたいになってて、オレも南国荘へ来たばっかりの頃、一人で何度か散歩しに行ったことがあるんだ。近所にコンビニがあるから、そのついでに行く感じだったけど。
オレの提案を気に入ってくれたのか、咲良さんがぱあっと明るい笑顔になる。
「ホント?」
「うん。明日は学校昼までだし」
「嬉しいナ。アリガトウ、トラオミ。帰ってクルの、待ってるネ」
「了解。超急いで帰ってくるから」
こんなに喜んでくれるなら、言って良かった。今の短い時間でも、いろいろ意外な顔を見られたから……明日はもうちょっと、咲良さんのこと教えてもらえるかな。
咲良さんは面白がって、オレの言葉を真似してる。超待ってるとか言って。
発音はおかしいけど、せっかくきれいな日本語を身につけている咲良さんなのに。オレのせいで、変な日本語を覚えちゃうんじゃないかと思うと、つい微妙な笑いが浮かんでしまった。