でもまあ、そんな蓮さんの笑顔を見た咲良さんは、ラッキーって思ってるんだろうな。そう思って咲良さんに視線を向けたオレは、めちゃくちゃ驚いて固まってしまった。
咲良さんは蓮さんの笑顔を見て、僅かに目を見開き、ふいっと逸らせたんだ。
二宮さんに笑いかける蓮さんを、見ないようにしてる。
少し目を伏せ、それからじっと閉じて。ゆっくり立ち上がった咲良さんは、何気ない感じで、蓮さんに背を向けた。
「アメ、降ってキタね〜。アシタは晴れるカナ?」
さりげない言葉。
でも何かを紛らわせているようにも聞こえる言葉。
南国荘に来た初日から、全力で蓮さんを口説いている咲良さんに、あんな笑顔が向けられることはない。
能天気に喜べないんだ。
……そうだよね。咲良さんに向けられた笑顔じゃ、ないんだから。
あんな風に笑う蓮さんを見られて、嬉しい気持ちもあるんだろうけど。それより悔しさの方が大きくて、でも二宮さんに嫉妬するのは間違ってるって。そう思ったのかな。
オレはこのとき、咲良さんの本気を思い知ったような気がした。
この人、ちゃんと本気なんだ。
真剣に蓮さんが好きなんだ。
笑ったりしなければ良かった。器量の大きさに、尊敬している場合じゃない。
どうしてもオレは、千歳さんと蓮さんに別れてほしいと思えないから、咲良さんを応援したり出来ない。二人がどんなに強い気持ちで一緒にいるのか、知ってるし。
だから……咲良さんの想いは近いうち、砕けてしまうんだろう。
……切ないよね。
オレ、千歳さんが自分のものにならないって思い知ったとき、一人でこっそり泣いたもん。情けないのはわかってたけど。だってオレも本気で、千歳さんが好きだったから。
窓の外を眺めている咲良さんに近づき、隣に並ぶ。顔を見られるの、イヤかな?って思ったんだけど。咲良さんはやっぱり笑顔でオレを見下ろしていた。
「ギリシャはあんまり雨、降らないの?」
「ソウダネ、日本ヨリ少ないヨ」
「いいな。オレ、雨きらい」
「ドウシテ?雨のニホン、きれいナノニ」
「そうかなあ…出掛けたときは傘が邪魔になっちゃうし、冬に降ったらほんとに寒いんだもん」
「ン〜確かにサムイのは、チョット困る」
でもね、と咲良さんは窓の外を見つめながら、指先でとんとん、とガラスを叩く。
「アメの音、ニホン人はシラベって言うデショ?シラベは音楽のコトバなのに。ボクはそんなニホン人がダイスキ。だからニホンに来たら、色んなアメのオトが聞きタイとオモッテたよ」
「色んなって、どんな?」