【南国荘U-D】 P:03


 でもまあ、そんな蓮さんの笑顔を見た咲良さんは、ラッキーって思ってるんだろうな。そう思って咲良さんに視線を向けたオレは、めちゃくちゃ驚いて固まってしまった。

 咲良さんは蓮さんの笑顔を見て、
僅かに目を見開き、ふいっと逸らせたんだ。
 二宮さんに笑いかける蓮さんを、見ないようにしてる。
 少し目を伏せ、それからじっと閉じて。ゆっくり立ち上がった咲良さんは、
何気ない感じで、蓮さんに背を向けた。

「アメ、降ってキタね〜。アシタは晴れるカナ?」

 さりげない言葉。
 でも何かを紛らわせているようにも聞こえる言葉。

 南国荘に来た初日から、全力で蓮さんを口説いている咲良さんに、あんな笑顔が向けられることはない。
 能天気に喜べないんだ。
 ……そうだよね。咲良さんに向けられた笑顔じゃ、ないんだから。
 あんな風に笑う蓮さんを見られて、嬉しい気持ちもあるんだろうけど。それより悔しさの方が大きくて、でも二宮さんに嫉妬するのは間違ってるって。そう思ったのかな。
 オレはこのとき、咲良さんの本気を思い知ったような気がした。

 この人、ちゃんと本気なんだ。
 真剣に蓮さんが好きなんだ。

 笑ったりしなければ良かった。器量の大きさに、尊敬している場合じゃない。
 どうしてもオレは、千歳さんと蓮さんに別れてほしいと思えないから、咲良さんを応援したり出来ない。
二人がどんなに強い気持ちで一緒にいるのか、知ってるし。
 だから……咲良さんの想いは近いうち、砕けてしまうんだろう。
 ……切ないよね。
 オレ、千歳さんが自分のものにならないって思い知ったとき、一人でこっそり泣いたもん。情けないのはわかってたけど。だってオレも本気で、千歳さんが好きだったから。

 窓の外を眺めている咲良さんに近づき、隣に並ぶ。顔を見られるの、イヤかな?って思ったんだけど。咲良さんはやっぱり笑顔でオレを見下ろしていた。

「ギリシャはあんまり雨、降らないの?」
「ソウダネ、日本ヨリ少ないヨ」
「いいな。オレ、雨きらい」
「ドウシテ?雨のニホン、きれいナノニ」
「そうかなあ…出掛けたときは傘が邪魔になっちゃうし、冬に降ったらほんとに寒いんだもん」
「ン〜確かにサムイのは、チョット困る」

 でもね、と咲良さんは窓の外を見つめながら、指先でとんとん、とガラスを叩く。

「アメの音、ニホン人はシラベって言うデショ?シラベは音楽のコトバなのに。ボクはそんなニホン人がダイスキ。だからニホンに来たら、色んなアメのオトが聞きタイとオモッテたよ」
「色んなって、どんな?」