【南国荘U-D】 P:06


 オレはやっぱ母親である理子(リコ)の作るメシが一番好きだし、同じくらい蓮さんの作るメシも好きなんだけど。味だけだったら、ダントツで雷馳の作るメシが美味しいんだ。
 すごいんだよ。店で食べるより、全然美味しい。
 ただまあ、時間がな〜……かかりすぎるんだよね、雷馳。今日はちゃんと出来てればいいけど。
 半日待たされたら、
何を食べても美味しいのかな?って気はする。それくらい時間、かかるんだよ。

「ただいま〜」

 たまに裏から帰るけど、今日は表から南国荘に入る。中庭で、そこにいるかどうかわからないラジャさんに声をかけた。
 まあ、いてもいなくてもいいんだ。習慣だから。ラジャさんがいなくても、他の精霊はいつもいるらしいし。
 それからオレは、玄関を開けてリビングに顔を出した。
 実はこうして、自分の鍵を使わずに家に入るの、いまだにちょっと感動。オレずっと、誰もいない家に帰ってたからさ。

「榕子さん、ただいま〜」
「おかえりなさい、虎ちゃん」

 帰ってくると、必ず榕子さんが待っていてくれる。これもオレが、まっすぐ帰る理由のひとつかな。
 
遅くなったら心配かけるから、とも思ってるんだけど。榕子さんのこの言葉を聞きたいのが、本音なのかも。

「トラオミ、オカエリナサイ」
「ただいま咲良さん、待たせてごめんね」
「ダイジョーブ。好きなコをマツのは、オトコのタノシミ」

 にやりと笑った咲良さんが、片目を瞑ってそんなことを言う。
 
口説くのは蓮さんだけにしといてよ。咲良さんってまさか、誰にでもそういうこと言うヒトなの?せっかく見直したのに。
 そういえば二宮さんどうしたんだろう?最近はいつも、榕子さんと一緒にここでオレを迎えてくれるんだけど。
 周囲を見回したオレは、二宮さんを見つけてびっくりした。

「二宮さん…!」
「あ…あの、おかえりなさい」
「ああ、ただいま。いやそうじゃなくて、どうしたの、それ!」

 二宮さんはエプロンをつけて、キッチンに立っていた。
 全然見覚えのないエプロン。真っ赤なそれには、やけに毒々しいピンクのロゴが入ってるんだ。似合ってなかったら笑うけど、二宮さん妙に似合ってて可愛い。

「これは、その…伶志くんが…」
「伶?…伶の趣味なの、それ」

 趣味、悪ッッ!!
 二宮さんには似合うけど、伶志がこれをつけてるところを想像したら、笑うよりぞっとしてしまう。
 似合わないって、絶対ヤメて欲しい。もちろん同じ顔の雷馳にも。

「なんだかねえ、伶ちゃんと雷ちゃん、急な仕事が入ったんですって。閉じこもっちゃったのよ」
「またあ?」