「そうなの。それでね、あのエプロン持ってきて、あーちゃんに『料理できる?』って聞いたのよね」
「ソウ。アオキが少しならデキルって言っタラ、アレ渡してアトお願いッテ」
何ソレ……伶志と雷馳が勝手なのは、いつものことだけど。
オレは溜息を吐きながら、いつも千歳さんが座っている椅子に鞄を置くと、キッチンへ向かった。
「二宮さん、ケガは大丈夫?痛くない?」
「うん、大丈夫。でもぼく田舎料理しか出来ないから、口に合うかどうか…」
不安そうに出してくれたトレイには、魚の煮つけとか、野菜の炊き合わせとかが乗っていた。
ヤバい。オレ、苦手なものばっかりだ。
「あの…美味しくないと思うけど、良かったら」
「い、いや全然、美味しそう」
「オイシイヨ、アオキのご飯」
「そうなのよ〜びっくり。あーちゃん、お料理上手なのねえ」
「そんなことないです。あの、ぼく蓮さんみたいに、きれいな料理とかできなくて…すいません…」
本当に申し訳なさそうな顔をしている二宮さんを見たら、魚が苦手だとか、野菜は蓮さんの料理以外食べられないとか、言えなくなってしまう。
なんとか……なるかな?
いや、気合だよこんなの。食べられると信じて食べれば、きっと食べられる……はず。
とにかく笑顔で料理を受け取って、自分の席に座る。
変に注目されながら、普段どおりを装って里芋の煮たのを口に押し込んだオレは、本気でびっくりしてしまった。
おかしいな……美味しい。
「あの、ごめんね。虎臣くん、野菜きらいだったよね?食べなくてもいいから」
「……全然」
「え?」
「美味しい。マジで。…なんで?」
「虎臣くん?」
「すごい、オイシイ」
濃い目の味付けは、理子とも蓮さんとも違う。でも本当に美味しいんだ。
「ごめん、二宮さん。オレ実は、こういう料理苦手なんだけど」
「あ…そう、だよね。ごめんね。何を作って言いかわからなくて、ぼく」
「違うんだ。苦手なんだけど、すごい美味しいから、ちょっとびっくりした」
何事にも丁寧な二宮さんの作ってくれた料理。性格が現れてるのかな?里芋とかニンジンとか、噛むとほろほろ崩れていくんだ。じっくり煮たのがわかる。
それに味も、確かに濃いけどダシの味って感じで、辛かったり甘かったりするわけじゃない。
お腹がすいていたのも手伝って、オレは注目されてることも忘れ、がつがつ食べ始めてしまった。
魚も美味しい。これなに?何の魚だろう。詳しくないのが悔しいな。もう一回食べたくても、知らなきゃ言えないじゃん。