「レンは黙ってシャシン撮るケド、ジンはサツエイのとき、タクサン喋る」
「咲良さんのお父さん?」
「ソウ。ジンのサツエイ、昔ナンドか見にイッタ」
「どんな人なの?咲良さんのお父さん」
「超ワガママ」
すっかり咲良さんのお気に入りになってしまった、オレの使う言い方。さらっと言われたらなんか照れくさい。
「ジンはナニモ諦めナイ。ママをアイシテルこと、ステキなシャシンを撮りタイこと。ゼンブ自分の思いドオリにスル。ボクはジンのそういう強さがウラヤマシイ」
びっくりした。
オレから見たら、いつでも明るくて優しい咲良さんも、十分強いと思うのに。
咲良さんはお父さんに、そんなこと思ってるんだ。
写真で見ただけの蓮さんに憧れ、遠い日本まで追いかけてきた。
千歳さんがいるとわかっても、けして諦めようとしない。どんなに蓮さんが、咲良さんの気持ちを受け入れてくれなくても。
それが強さなんだとしたら、千歳さんを諦めてしまったオレは、弱いんだろうか。
「ねえ、咲良さん」
「ナニ?」
「…どうしても蓮さんじゃなきゃ、ダメ?」
オレ、咲良さんを応援したいのに。咲良さんが幸せになればいいって、思うのに。
それが千歳さんを悲しませるなんて……そんなの、イヤだよ……。
悔しくて思わず呟いてしまったオレを見つめ、咲良さんは足を止めた。南国荘まであと少しというところ。
「…トラオミは、ヤサシイね」
「そうじゃなくて」
「ボクはレンをアイシテル。ソレは変えラレナイ」
「…うん」
「トラオミはチトセの味方なんダネ」
「ごめん…オレ、咲良さんの気持ち、わかってるつもりなんだけど」
「イイヨ、間違ってナイ。トラオミが誰の味方デモ、ボクはトラオミがスキだ」
まっすぐ目を見て言われた直球の言葉に、オレは顔が熱くなっていくのを、止められなかった。
うわ……嬉しいけど恥ずかしい。
咲良さんはけっこう誰にでも、気軽に好きだって言う。オレも言われたの初めてじゃない。でも二人きりで、こんな真剣な顔で言われたのは、初めて。
学校の女子に告られたことなら、何度もあるのに。咲良さんの言葉には、めちゃくちゃ動揺してしまう。
意味、違うのに。なんかくすぐったくて、恥ずかしい。
「そういうことばっかり言ってるから、蓮さんに節操がないって言われるんだよ!」
「エ!ちょっとトラオミ、ドコ行くのっ」
「南国荘まで走るっ!」
なに照れてんのオレ!恥ずかしいのオレじゃん!!
真っ赤になってる自覚があるから、振り返ることなんか出来なくて。追いかけてくる咲良さんに捕まらないよう、オレは全力で南国荘へ向かい、駆け出していた。
《ツヅク》