【南国荘U-D】 P:10


 日本で生まれ育ったオレの方が、日本語はできるはずなのに。お坊さんと咲良さんの話している専門的なこと、全然わからない。
 ナントカ様式とかそういうの。でも800年位前に立てられたお寺だって聞いたときは、さすがにびっくりしたな。

 お寺の床下とか、天井とか、オレには何がいいのか、全然わからないけど。咲良さんはそういうところに、カメラを向ける。
 人が写真を撮ってる姿って、面白いね。後ろで見てると、その人の視線がわかるから、興味を持ってる気持ちの行き先が見えてくるんだ。
 仕事で写真を撮る蓮さんは、また違うのかな。
 でも蓮さんが時々、理子に送ってる南国荘の写真、好きだよ。蓮さんが家を大事にしてるって、見ればわかるんだ。
 いいな、咲良さんとか千歳さん。蓮さんの仕事場、
行ったことあるんだよね。オレもちょっと見てみたい。
 でもさ……そういう子供っぽいワガママ、蓮さんに言いたくないんだ。
 蓮さんの仕事部屋とか、暗室とか、実は前から興味があったんだけど。
いまだに入ったことはないんだ。

「ミセテって、言えばイイ」

 南国荘へ帰る道を歩きながら話すと、咲良さんは何でもないことのように言う。
 わかってるんだけど、ガキっぽくて笑われそうでさ。

「レン、きっとヨロコブよ。カレはシゴトをダイジにしてる。サツエイしてるレンは、
ナンゴクソウにいる時とゼンゼン違ウ、もっと魅力的ダッタ
「昨日、押しかけたんだっけ?」
「ミタカッタから。カメラ構えてる、レンのコト」

 その時の蓮さんを思い出しているのか、咲良さんは足元を見つめて、幸せそうな笑みを浮かべていた。

「スタッフはみんな、レンのコトバを待ってる。デモ、レンはけしてアセラナイ。ジブンの求めるシャシン撮れるマデ、キビシイ顔でモデル睨んでた」
「蓮さんに睨まれたら、モデルの人怖がっちゃうんじゃない?」
「ソンナことナイ。モデルもシゴト。ジブンに出来るゼンブで、レンに応えるヨ」
「そっかあ…」

 プロなんだ。蓮さんも、モデルさんも。
 オレ、南国荘で蓮さんに会ってから、蓮さんの仕事を見る機会が増えて、驚いたことがあるんだよね。
 すごい好きなポスターがあってさ。ポータブルオーディオのCMポスターなんだけど。
 ドラマとかにもけっこう出てる有名な俳優さんが、それを聞いて笑ってるんだ。めちゃくちゃカッコ良くて、お年玉貰ったとき、即買いしたんだよ。あれ撮ったの、
実は蓮さんなんだって。
 まだ言ったことないけど、言ったら喜ぶのかな?まあ千歳さんから、もう聞いてるのかもしれないけど。