日本で生まれ育ったオレの方が、日本語はできるはずなのに。お坊さんと咲良さんの話している専門的なこと、全然わからない。
ナントカ様式とかそういうの。でも800年位前に立てられたお寺だって聞いたときは、さすがにびっくりしたな。
お寺の床下とか、天井とか、オレには何がいいのか、全然わからないけど。咲良さんはそういうところに、カメラを向ける。
人が写真を撮ってる姿って、面白いね。後ろで見てると、その人の視線がわかるから、興味を持ってる気持ちの行き先が見えてくるんだ。
仕事で写真を撮る蓮さんは、また違うのかな。
でも蓮さんが時々、理子に送ってる南国荘の写真、好きだよ。蓮さんが家を大事にしてるって、見ればわかるんだ。
いいな、咲良さんとか千歳さん。蓮さんの仕事場、行ったことあるんだよね。オレもちょっと見てみたい。
でもさ……そういう子供っぽいワガママ、蓮さんに言いたくないんだ。
蓮さんの仕事部屋とか、暗室とか、実は前から興味があったんだけど。いまだに入ったことはないんだ。
「ミセテって、言えばイイ」
南国荘へ帰る道を歩きながら話すと、咲良さんは何でもないことのように言う。
わかってるんだけど、ガキっぽくて笑われそうでさ。
「レン、きっとヨロコブよ。カレはシゴトをダイジにしてる。サツエイしてるレンは、ナンゴクソウにいる時とゼンゼン違ウ、もっと魅力的ダッタ」
「昨日、押しかけたんだっけ?」
「ミタカッタから。カメラ構えてる、レンのコト」
その時の蓮さんを思い出しているのか、咲良さんは足元を見つめて、幸せそうな笑みを浮かべていた。
「スタッフはみんな、レンのコトバを待ってる。デモ、レンはけしてアセラナイ。ジブンの求めるシャシン撮れるマデ、キビシイ顔でモデル睨んでた」
「蓮さんに睨まれたら、モデルの人怖がっちゃうんじゃない?」
「ソンナことナイ。モデルもシゴト。ジブンに出来るゼンブで、レンに応えるヨ」
「そっかあ…」
プロなんだ。蓮さんも、モデルさんも。
オレ、南国荘で蓮さんに会ってから、蓮さんの仕事を見る機会が増えて、驚いたことがあるんだよね。
すごい好きなポスターがあってさ。ポータブルオーディオのCMポスターなんだけど。
ドラマとかにもけっこう出てる有名な俳優さんが、それを聞いて笑ってるんだ。めちゃくちゃカッコ良くて、お年玉貰ったとき、即買いしたんだよ。あれ撮ったの、実は蓮さんなんだって。
まだ言ったことないけど、言ったら喜ぶのかな?まあ千歳さんから、もう聞いてるのかもしれないけど。