ボクの幸せはレンの中にある。
全てを受け止められる強さがあれば、立ち向かえると。そう言ったらトラオミは、なんて答えるだろう。
「今日はおとなしいな」
前を向いたままのレンに言われて、ボクは頬を綻ばせた。
「ソノ分、レンをミテル」
「なるほど」
「ねえレン、あとドレクライ?」
「このまま混んでなかったら、10分ぐらいで着くだろ」
そっか。あと10分でレンと離れなきゃいけないんだね。
胸の辺りがきゅうっと苦しくなる。
ねえトラオミ。人を好きになれば、苦しくなるのは当然なんだ。それを恐れていたら恋なんか出来ない。
チトセを愛し続けるか、ボクを愛してくれるか。決めるのはレンだよ。彼がどちらを選ぼうと、その先には必ず誰かの痛みや苦しみがある。
でもトラオミの言うとおり、同じだけの幸せもあるだろう。
だったらボクは、ボクの幸せを望むだけ。チトセも自分の幸せを求めればいい。
成田空港の入口が見える道路は、たくさんの車で溢れていたけど。空いたスペースを見つけ、レンが車を停めてくれた。
こっちを向いて、ボクを見る。
その顔はいつもより穏やかに見えて、五年前に見た写真の中の可愛いレンを、ボクに思い出させた。
「着いたぞ、気をつけて…咲良?」
黙ってシートベルトを外したボクは、そのままレンの身体をドアの方へ押し付けた。抵抗する手を捕まえ、彼の頭を押さえて唇を重ねる。
「っ…ん!」
甘いな、レンの唇。
いくら舌先でつついても、それがボクのために開かれることはなかったけど。
いいよレン、今日はこれだけで許してあげる。
ちゅっと吸い付きながら離れたら、思いっきり睨まれて。でも息苦しかったんだろう。綺麗なラインを描く頬が、わずかに赤くなっていた。
美しいボクの想い人。
どうかボクのこと忘れてしまわないで。
「アイシテルよ、レン。スグに戻ってクルからネ」
「とっとと行けっ!」
最後にとうとう罵声を浴びせられた。
怒った顔に笑ってしまう。さすがに流せなかった?でもボクはそんなレンが、もっと見たいんだ。いろんな顔をして欲しい。
このまま抱きしめていたら、本当に殴られてしまいそうだから。ボクは素早く扉を開けて、自分の鞄を掴み車の外に出た。
「待ッテテね!ウワキしちゃダメだよ!」
「誰が浮気だフザケんなっ!」
そんな風に怒鳴ったって、ボクが空港に入るのをちゃんと見守っていてくれる。
本当に、愛しているから。
レン、君のところへ帰ってくるよ。
《ツヅク》