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レンが差し出してくれたのは、サンドイッチの詰めてあるランチボックス。レンは何でもないことのように、そんな嬉しいことを言うんだ。
ボクはずっと悩んでいたことなんか全部忘れて、レンに抱きついた。
「ウレシイよレン!アリガトウ!」
「わかったわかった」
慣れた仕草でボクを引き離す。今日はボクもレンを引き止めない。
ボクの腕から抜け出したレンは、カメラの入ったバッグを肩にかけると、ヨコウさんを振り返った。
「榕子(ヨウコ)さん、あと頼む」
「はあい。じゃあせっかくだし、さくらちゃんのお見送りしようかしら。あーちゃんもいらっしゃい」
「アリガト、ヨウコさん。アオキも来てクレルノ?」
「あ…はい。行きます」
四人で歩いて、キッチンの方から裏庭に出る。そこにレンが車を停めてるから。
先に乗り込んだレンの隣り、助手席に鞄とレンの用意してくれた朝ごはんを置いて、ボクは見送りに来てくれた二人を振り返った。
「スグ戻るネ、ヨウコさん」
「ええ、待ってるわ。陣さんとお母様によろしくお伝えしてね」
「カナラズ伝えるヨ」
答えながら、ヨウコさんとハグをする。
日本人はあまりしないけど、しばらく離れる時くらいはいいよね。ヨウコさんもちゃんと抱き返してくれた。
「アオキ、見送りキテくれてアリガト。今回はアマリ話せなかったケド、戻ってキタラもっとアオキのこと、オシエテね」
「…はい。お気をつけて…え?」
怪我には触らないよう、ゆったりハグしたつもりなんだけど。アオキは青ざめてその場に固まってしまった。
「アオキ?痛カッタ?」
「あ、あの」
「慣れてないだけよ、大丈夫。ほら、蓮ちゃんが待ってるわ」
「うん。ジャア行くネ!」
車に乗り込み、走り出した窓から二人に手を振った。
南国荘が遠くなっていく。たった一週間しかいなかったのに、なんだか寂しいな。
もっと早く起きれば、チトセやトラオミともハグして別れられたのに。
そう思った途端、ボクはまたトラオミの言葉を思い出してしまった。
成田までの短い時間。用意してもらったサンドイッチを食べ終わったボクは、ハンドルを握るレンの横顔を見ながら、また色んなことを考えてしまう。
この綺麗な顔を諦めるなんて、やっぱり無理だよ。でもそれが誰かの不幸に繋がるなんて、考えてもみなかった。
幸せと不幸は等分だと、トラオミは言っていた。
とても哲学的な言葉だ。
ボクは今まで、自分が幸せであるよう望み、努力するなら、それが与えられると信じていたから。
確かに世界は不幸に溢れていて、運命の采配に勝てないこともある。
それを否定するわけじゃないけど、だからそこ幸せになろうとする努力を、人は怠ってはいけないんだと思うんだ。