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【南国荘Ⅱ-⑧】 P:01


 二宮(ニノミヤ)くんが駅で倒れたと、携帯に連絡があったのは、仕事も終わりかけの時間だった。
 何があったのか青くなった僕だけど、頼りになる息子が連絡をしてきたのは、全てが落ち着いた後。本当に、虎臣(トラオミ)くんは頼りになる。
 駅から連絡を受けた虎くんは、南国荘に戻ったばかりの咲良(サクラ)くんと一緒に、二宮くんを迎えに行ってくれたんだ。
 帰ってきた時ちょうど玄関で、往診に来てくれていた、近所のお医者さんとお会いした。二宮くんの脱臼した肩は、また炎症を起こして腫れているんだって。
 でも今、僕の目の前で彼が泣いているのはそのせいじゃないことぐらい、わかってる。

「…聞いたよ。仕事、探しに行ったんだってね?」
「すいま、せ…っ」

 二宮くんは本当に辛そうな顔で、泣きながら僕に謝っている。
 下で榕子(ヨウコ)さんに聞いたんだ。今日の昼前、真っ青な思いつめた顔で、彼は仕事を探しに出掛けたって。止めようとしたのに止められなかったと、榕子さんは後悔の表情を浮かべていた。
 そこまで彼を追い込んでいたことには、本当なら僕が気づいてあげなきゃいけなかったのに。気付いてあげられなかった。

「謝らなくてもいいから…泣かないで?もう大丈夫だよ。
…君はちゃんと、帰ってきたんだから。ケガしてるのに一人で繁華街行くなんて、大変だったでしょ。もう大丈夫だよ」
「あ、ずまさっ…ぼくっ」
「うん…わかってる。仕事を始められないこと、そんなに気にしてたんだね…気付いてあげられなくて、ごめんね」

 ケガをして仕事をなくし、住むところまで追われたのだと聞いた僕は、二宮くんを南国荘へ連れて来た。
 ほぼ毎日、お医者さんに行くだけで南国荘に閉じこもってる二宮君のこと、気をつけていたつもりなんだけど。ケガが治るまでは仕方ないとも思っていたし、最近彼が落ち着いてきたように見えて、安心してしまったのも事実だ。
 でもこんなに追い詰めていたなんて。
 彼が真面目で一途な子だということは、同じ部署で仕事をしていたときから、わかっていたはずなのに。

 今の彼に一番必要なのは、安静だと思うんだけど。泣いている二宮くんを見ていたら、一概にそうも言えないんじゃないかって、思えてくる。
 前に進まなきゃ、彼は自分を責めて傷つくばかりなのかもしれない。

「ねえ二宮くん…仕事、一緒に探そうか」
「え?」
「ケガで動けない今なら、色んなことを考えられるでしょ?もし資格が必要だったら、動けない今はチャンスだよ。だから、一緒に探してみよう。君の一生懸命な性格を、活かせるような仕事。」

 僕の言葉を聞いて、二宮くんは驚いた顔をした。どうせ自分なんかって、思ってしまう気持ちはよくわかるよ。
 僕自身が昔、そうだった。