【南国荘U-H】 P:01


 玄関ホールで何か音がしてるなって思ってたら、オレと二宮(ニノミヤ)さんがいるダイニングに千歳(チトセ)さんが飛び込んできた。

「ただいま!」
「おかえりなさい、東(アズマ)さん」
「お、かえり…どうしたの?千歳さん」
「うん、ちょっとね」

 珍しいな。千歳さんがこんな、騒々しく帰ってくるなんて。
 オレは時計を見上げた。
針はもうすぐ8時を指そうというところ。
 最近忙しそうだったけど、今日は残業しなかったのかな?そうだとしても、千歳さんはなんだか、やけに浮かれてるみたいだ。

「二宮くん、もう身体はいいの?熱、下がった?」
「はい…ご心配お掛けして、すいません」
「気にしないで」

 笑顔で二宮さんに聞いてるけど、気はそぞろって感じだ。バタバタとオレに近づいた千歳さんは、慌しくコートを脱ぎ始めている。

「ごめん、虎くん。
コート預けていい?
「いいけど…なに慌ててるの?」
「蓮(レン)に仕事の話があって」
「ああ…蓮さんなら…」

 仕事場、って言おうとしたんだけど。
千歳さんは放り投げる勢いでコートを置くと、鞄抱えて踵を返した。

「大丈夫、ラジャさんに聞いた!じゃあ、あとよろしくっ」
「ちょ、千歳さん!晩ご飯…っても〜」

 入ってきた時と同じ勢いで、千歳さんはリビングを出て行ってしまう。
 オレは溜息を吐いて、
千歳さんが乱暴に脱いで行ったコートを整え、いつも千歳さんが座っているイスに掛けた。

「晩ご飯、どうする気なんだろ」
「冷蔵庫に仕舞っても、いいのかな?」
「いいんじゃない?あの様子じゃ、もう朝まで蓮さんの部屋から出てこないと思う」

 お腹すいたら、蓮さんが何とかするだろうし。そう続けたオレの言葉を聞いて、二宮さんは少し頬を赤くしながら、ラップを取りに行ってくれた。
 最初は蓮さんと千歳さんの関係を知って、嫌悪感ってほどじゃないけど、不快感を露にしていた二宮さん。でも最近はようやく慣れて、受け入れられるようになったみたいだ。
 咲良(サクラ)さんのおかげかな?あの人ほんと、どこでも蓮さんを口説くんだから。

 ダイニングテーブルから、じっと二宮さんを見つめる。
 先週、駅から二宮さんが倒れてるって、連絡来たときは驚いたよ。
 学校から帰って来たら、榕子(ヨウコ)さんが昼に出て行った二宮さんが帰ってこないって、
心配して青くなっててさ。どうしたんだろって二人で心配してるところに、咲良さんがギリシャから帰ってきて。
 千歳さんか蓮さんに連絡取った方がいいんじゃないかって、三人で相談してたら、蓮さんの中学時代の同級生だっていう駅員さんが「お宅の住人、駅で倒れてますよ」って、電話をくれたんだ。
 咲良さんと一緒に迎えに行ったら、二宮さんは真っ青な顔で気を失ってて、駅長室の簡易ベッドに寝かされてた。
 ほんと、血の気が凍るって、ああいうのを言うんだね。咲良さんが支えてくれなかったら、オレまで倒れてたかも。