「あの…虎臣(トラオミ)くん?」
「なに」
「ごめん、どうしたのかなって…」
じろじろ見られてるのが、気になったのかな。二宮さん、戸惑った顔してる。
オレはダイニングテーブルに肘をついて、手に顔を乗せた。
「見張ってるんだ」
「え?」
「だって二宮さん、一人で全部片付けちゃうから、暇なんだもん。だから二宮さんがムリしてないか、見張ってる」
にやりと笑ったオレに、二宮さんは相変わらず「ごめん」と呟いて下を向いた。
夕食が終わったあと、蓮さんは何か今日の仕事で、気になってることがあったみたいでさ。珍しくオレと二宮さんに「後を任せてもいいか」って言ったんだ。
オレたちが「いいよ」って答えたら、二宮さんに無理させるなってオレに釘を刺して、部屋に戻って行った。
当然、咲良さんは仕事部屋まで付いていこうとしたんだけどね。蓮さんは咲良さんに、伶(レイ)と雷(ライ)の夕食を押し付けて、運んでやれって。そのまま逃げてしまった。
上手くなったよね、蓮さん。咲良さんのかわし方。咲良さんって用事を頼まれると、絶対にイヤって言わないんだもん。
渋々な顔で二階へ上がった咲良さんは、戻ってこない。部屋に帰ったのかな。同じタイミングで榕子さんも部屋に戻っちゃったし。
だから今、ダイニングにはオレと二宮さんだけ。
もちろんオレは、一緒に後片付けするつもりだったんだ。でも二宮さんに「いいから座ってて」って言われて。確かにオレじゃ手際のいい二宮さんの邪魔になりそうだったから、こうして手持ち無沙汰に座ってる。
それにしても、喉渇いたな。でもコーラって気分じゃないし。
「そんなに見張ってなくても、無理してないよ。大丈夫」
「それは先週、自分が倒れたことをふまえて言ってる?」
「う、うん…ごめんね」
「いいよ、ほんとは気にしてない。でもあんまり、心配させないでね」
「うん…それで、あの」
「なに?」
「お茶、とか…飲む?」
ちょっとびっくり。こんなこと二宮さんが自分から言うの、初めてだ。なんか嬉しい。
「ありがと、二宮さん。お願いします」
「…良かった」
ほっとした顔で、お茶の用意を始めてくれる。
二宮さんはどういうわけか、よく困ってるような顔をするんだ。その表情、オレには悲しそうにも見える。
ケガとか仕事とか、二宮さんが苦しんでいる現状を、わかってないわけじゃないけど。仕方ないことなんだし、もっと気楽に考えられたらいいのに。
二宮さんは口癖のように「ぼくには何も出来ないから」って言う。
オレから見る二宮さんは、何も出来ない人じゃないよ。家事の手際のよさは、きっと蓮さんにも匹敵すると思うんだ。
それにオレ、二宮さんがたまに作ってくれるメシが好きなんだよね。
蓮さんが作るのより、雷が作るのより。
口に合うっていうか、苦手なものでも、美味しいと思って食べられる。