二宮さんは少し顔を赤くてる。蓮さんの言葉が、よほど嬉しいのかな。
二宮さんを励ましたいと思っていたオレに、協力してくれると言った蓮さん。ちゃんとオレの気持ち、わかってくれてたんだ。
「二宮、もちろん無理はしなくていい。たった一週間足らずだしな。洗濯物とメシだけで構わない。やってくれないか?」
「あ…の…でも、ぼくなんかに…」
「いいじゃん、やってみれば」
二宮さんが断ってしまいそうなのを察したオレは、慌ててその言葉を遮った。
「虎臣くん…でも」
「大丈夫だって、オレも手伝うし。ケガが痛かったら、指示だけしてよ。どうしても無理だと思ったことは、どうしたらいいか蓮さんに電話して、聞けばいいよね?」
「ああ」
すごく迷ってるみたいだったけど、二宮さんは答えを求めるみたいに、オレの顔を見つめてる。大丈夫って、オレが笑うのを見て、ようやく頷いてくれた。
「じゃあ、あの…お役に立てるかどうかわからないけど、ぼくで良かったら」
「助かる。ありがとう」
「あ…はい」
嬉しそうな二宮さんが、オレに笑いかけてくれる。今までに見たこともないくらい、柔らかい表情だ。蓮さんに相談して良かった。
オレも二宮さんに笑みを返して、置いていた箸を手に取った。
でもあまり、食は進まない。
……咲良さんも、笑えるようになるかな。
二宮さんがやっと嬉しそうな顔をしてくれたのに、オレは咲良さんのことばっかり考えてしまう。
全然想像できないけど……泣いたり、してるのかな。そばへ行っちゃダメなんだよね。でも同じ家の中で、咲良さんが傷ついてるのに。オレには何も出来ないの?
咲良さんの笑顔が大好きなんだ。すごく明るくて、優しくて。そばであの顔を見上げてると、それだけで幸せになるんだよ。
蓮さんや千歳さんとは全然違う、大人の雰囲気。隣にいてくれると、つい頼りたくなってしまって、困るくらいなんだ。
咲良さんが好きなのは蓮さんだって知ってるから、あんまり甘えちゃダメなんだって、ちゃんとわかってるんだけど。
咲良さんの「アイシテル」という言葉は、行き場を失ってしまった。あの情熱的な言葉は蓮さんだけのもので、全て蓮さんに捧げられていた。
ワガママなのも、理不尽なのもわかってるよ。でもオレが望んでいたはずの咲良さんの失恋に、びっくりするぐらいショックを受けている自分がいて。上手く言葉を紡げない。
再開されれた食事の席では、明るい伶の声が、カステラのこだわりを話してる。いつもならオレも伶の話に乗っかって、その場を盛り上げるのに。
何度も何度も、咲良さんの去っていった方を見てしまうんだ。
そんなことありえないって、思うのに。
オレは心のどこかで、いつまでも笑顔の咲良さんが戻ってくるのを待っていた。
《ツヅク》