「お前だから言うんじゃない。誰だろうと千歳の代わりは、いらないんだ」
「レン…!」
「もしこの先、千歳を失うことがあったら。オレは一人で生きていく」
咲良さんの顔が色を失っていく。
そんなにハッキリ言わなきゃいけない?咲良さんが本気で蓮さんを好きなのは、この場にいる全員が知ってることなのに。
「お前の気持ちは嬉しいさ。好意を持たれて嫌な気になる奴はいない。しかしそれで、千歳が辛い思いをするなら別だ。俺のことは諦めろ」
「…なにヒトツ、ボクに可能性はナイって、言いタイの…?」
「そうだ」
きっぱりした蓮さんの言葉を聞いて、咲良さんはガタン、と席を立った。
「…ワカッタ」
「咲良さんっ」
「ゴハン、ごちそうさま。オイシカッタ」
「待って咲良さんっ!」
追いかけようとする俺を、蓮さんが強く引き止める。
仕方ないのはわかってるよ。こうなるだろうって思ってたし、これが一番いいのはわかってる。でも放っておけない。咲良さんは絶対、傷ついてるのに。
だけど、蓮さんの腕はオレを離そうとしない。もがいてたら、ずっと黙ってた榕子さんが「行っちゃダメよ、虎ちゃん」って、静かに呟いた。
「榕子さん、でも!」
「これは咲良ちゃんが、自分で解決しなくちゃいけないことよ。わかったって、言っていたでしょう?何かを諦めなくちゃいけないとき、他人の存在は邪魔なだけよ」
「そう…だけど…」
「虎ちゃんがそばにいたら、どんなに泣きたくても、咲良ちゃんは我慢するんじゃないかしら。そういう優しい子だって、知ってるわよね?」
「…うん」
立ち上がっていたオレは、イスにへたりこんでしまう。
蓮さんと千歳さんの手はオレから離れてたけど、もう立ち上がらなかった。
そうなんだ……オレも千歳さんを諦めたとき、南国荘の空き部屋に閉じこもって、一人で泣いてた。そんな情けないとこ、誰にも見られたくなかった。
いまの咲良さんには、誰も近づいちゃいけないんだ。どんなに心配でも、待っているしかない。
蓮さんがオレの頭に手を置いた。ぽんぽんって、何度か軽く撫でてくれる。
「二宮」
蓮さんに呼ばれて、おろおろと所在なさげにしていた二宮さんは、弾かれたように顔を上げた。
「は、はいっ」
「俺たちがいない間、南国荘のことをお前に頼みたい」
はっとして、蓮さんを見上げる。穏やかな顔をしてる蓮さんは、二宮さんからオレに視線を移し、頬を緩めていた。
「…ぼく、ですか?」
「蓮、待って。二宮くんはまだケガが…」
「わかってるよ。しかし現状、ここには二宮以上に頼れる奴なんか、いないだろ」
この話は、千歳さんとも相談していなかったみたい。蓮さんの言葉に、千歳さんは何か言いたそうな顔で、でも黙っていた。