「あ…い、や…いやだ」
「蒼紀?」
「いやっ…離して!ぼくに触るなっ!」
「っ!…蒼紀っ」
初めて抵抗した。
思い切り振り上げたぼくの手は、兄さんの頬に当たった。
隣の部屋に虎臣くんがいるのに。そんな場所でこんなこと、耐えられない!ぼくに触らないで!
「何のつもりだ!」
「やっ…あ!いやっ、やだっ」
「お前、いい加減にしろよ!!」
思いっきり頬を殴られる。でも抵抗をやめず、逃げ出そうとしたぼくを捕えて、兄さんは腹の辺りに拳を叩き込んだ。
「っ…く、ぁ」
痛みで身体が折り曲がった。苦しくて咳き込むぼくを、兄さんはやすやすとベッドに引きずり上げて、押さえ込む。
ぼろぼろ涙が零れた。
イヤだ……離して。
知られたくない。ぼくがこんなに汚れていること、虎臣くんにだけは知られたくない。
あんなに優しくしてくれたのに。彼がくれた優しさを、こんな形で裏切りたくない!
だけど、どんなに抵抗しても。ぼくの力では、自分を守ることさえ出来なかった。
「甘えるなよ、蒼紀。いつまでも許してもらえると思うな」
「ふ、っぅ…や…ぁ」
「声を出すなと、何度言わせる。黙って俺の言うとおりにしていればいいんだ」
兄さんの舌が身体を這い回る。かつて嫌悪しながらも、快楽を感じていた行為に、今は吐き気さえこみ上げる。
ろくに慣らしてくれることもせず、無理に後ろを貫かれた。兄さんのものがぼくを突き刺して、中をかき回してる。
「っ…ひっ…ん、ぅ…っ」
「どうせお前だって、俺が欲しいんだろ。それともこれぐらいじゃ足りないか?帰ったら思う存分、やってやるよ」
痛くて悔しくてぼくは、首を振り続けた。
心が引き裂かれる。
どうしてこの人は、ぼくをこんなに憎むんだろう。ぼくが何をしたと言うのか。
たった一人、ぼくに手を差し伸べてくれた少年さえ取り上げて。優しくされた時間を穢して。どうしたら許してくれるの?
……ぼくはただ、虎臣くんの隣で笑っていたいだけなのに。
「っ…あお、き」
大きさを増していた兄さんのものが、ぼくの中で弾ける。初めてじゃないのに、身体中を汚されたみたいで、唇を噛みしめた。
もう、虎臣くんに会えない。
こんな汚い人間、彼に会わせたくない。
両手で顔を覆って泣き続けるぼくは、扉を叩く大きな音を聞いて、びくっと身体を竦ませた。
「二宮さん!二宮さんオレだよッ!!ここ開けて二宮さんっ!」
ぼくを呼ぶ、虎臣くんの声。
恐ろしくて自分の身体を抱きしめた。
イヤだ……怖い。
その時ぼくは、助けてと叫んでしまいそうな自分が、何よりも怖かった。
《ツヅク》