【南国荘U-J】 P:13


 呆然とするぼくを、当たり前の顔で組み敷いて、痛みと蔑みの言葉を浴びせ続けた。
 兄の理不尽な行為に、それまで感じたことがないくらい大きな恐怖を覚えたんだ。
 この人は一生、ぼくを解放しない気だって、わかったから。

 母さんのためならずっと耐えるつもりだった。兄さんに逆らったことなんかない。
 だけどぼくは、一生という枷の重さを、その時になって初めて、現実的に理解した。
 このままこの家にいたら、兄さんは永遠にぼくを離さない。
 いつまでもこの家に囚われ、いつか自由に息を吸うことさえ出来なくなる。
 そう気付いたら、もう耐えられなかった。

 勝手に進路を変え、それを兄さんには話さないでほしいと、先生や母さんに懇願した。
 東京に就職を決めた後は、出発の日まで兄さんから逃げ回った。
 実家での最後の夜、とうとう捕まってしまったぼくは、兄に縛り上げられて朝まで犯されたけど。これが最後だと思えば、耐えられた。
 すでにぼくの東京行きは、両親の許しを得ていたから。
 兄さんは出来のいい息子でいることに、執拗なくらいこだわっていた。ぼく一人の時にどんな酷いことをしても、両親の前なら理解のある兄でいてくれるって、わかっていたから。

 二度と帰らないつもりで、家を出た。
 なんとかやっていけると信じてた。
 ぼくは自分を過信していたんだろうか。
 いま目の前にいる人は、どうせこうなるとわかっていたから、あの時ぼくを、少しの間だけ解放したんだろうか。

 何もかもまた、元通りになっていく。
 ぼくはこのまま家に連れ戻され、また自分の暗い部屋で、兄さんがドアを開けるのを、毎日毎晩、恐怖に震えながら待つんだ。

 こんな最後が決まっていたのだとしたら、どうして運命はわずかな光を、ぼくに差しかけたんだろう。

「あの女とは別れてやったぞ。満足か?」
「兄さん…ぼくは」
「何の価値もない人間のくせに、独占欲だけは一人前だな。どうやって育てばお前みたいな傲慢な人間が出来上がるのか、母さんに聞いてみたいもんだよ。…聞いてやろうか?」

 母のことを持ち出され、ぼくは息を詰めて固まった。
 少しは満足したのか、兄さんが笑ってる。

「本当に手間のかかる奴だよ、お前は。もういいだろ」
「…にい、さ…」
「脱げよ。どうやってこの淫乱な身体、慰めてたんだ?してやるよ。さっさと脱げ」

 命じる言葉に答えられない。
 蓮さんと東さんみたいに、愛し合うなら同性が相手でも、間違いじゃないだろう。
 でも兄さんがしようとしているのは違う。これは彼が、ぼくを殴る代わり。

 怯えて動けないぼくを見て、溜息を吐いた兄さんは、抵抗しない身体を押し倒す。身勝手に服を剥がされながら、ふいにぼくの脳裏を、虎臣くんの顔が過ぎった。
 ……知られたく、ない。
 彼にだけはこんな姿、知られたくない!